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指定校の実践事例から学ぼう! リーディングDXスクール事業 公開学習会 リポート Vol.9

2024.9.9

2024年7月22日に実施された“リーディングDXスクール事業”公開学習会にて、秋田県大仙市、富山県朝日町、山梨県甲府市、滋賀県湖南市の取組実践が紹介されました。
本学習会では、各自治体が行っている特徴的な取り組みが紹介され、GIGA端末の活用方法や標準仕様に関する実践事例を共有する場となりました。
本記事では公開学習会の発表内容の様子をリポートします。

登壇者

秋田県大仙市立中仙中学校 教諭 田中真二朗 氏

富山県朝日町立朝日中学校 教頭 上田勝 氏

山梨県甲府市教育委員会 学校教育課 指導主事 山主公彦 氏

滋賀県湖南市教育委員会 教育研究所 研究員 村田俊宏 氏

司会・進行
山梨大学教育学部 准教授 学校DX戦略アドバイザー 三井一希 氏

リーディングDXスクールの概要と本学習会の趣旨説明

最初に司会・進行を務める、山梨大学教育学部 准教授 学校DX戦略アドバイザー 三井一希氏から、リーディングDXスクール事業の概要および本学集会の趣旨説明がありました。

まず三井氏はリーディングDX スクール事業の概要を説明。

GIGA端末の標準仕様ソフトウェアやクラウド環境を活用しながら、子どもの情報活用能力育成を図り、個別最適な学び、協働的な学びの充実を目指すものであると説明しました。

また、三井氏はGIGA端末が校務DXにも有効活用できることを強調。「本日発表する事例の中にも、先生方、参加者の皆様の参考になるものが多くあるのではないかと思います」と述べ、各自治体の事例発表に移っていきます。

秋田県大仙市の取り組み

まず最初に発表したのは秋田県大仙市立中仙中学校教諭 田中真二朗氏です。

田中氏は2005年に1市・6町・1村が合併して成立した大仙市における、標準仕様やクラウドを利用した連携について発表しました。

Teamsを利用した連携の強化

田中氏はまず、中仙地域教育研究会(以下、中仙教)におけるDX事例について解説しました。

中仙教には3つの小学校と1つの中学校の教職員が所属していることを紹介。

大仙市の小中学校全てに導入されたMicrosoft Teamsを利用し、中仙地域の全職員を1つのチームにまとめることから始めたと語ります。

田中氏は「中仙教という組織をDXすることで、これまで意識的に1つになっていたものを物理的に1つのチームにし、より俊敏に業務や教育活動などを共有できるプラットフォームにすることができたと思います」と述べ、Teamsによって組織の連携がより強まったことを強調しました。

クラウドを利用した研究会・研修会のDX

続いて田中氏は、クラウド環境を利用した研究会・研修会のDX事例を紹介しました。

クラウド活用によって研究会に向けた時程調整、指導案や授業録画の共有が簡易化したことを解説。

加えて、授業のリアルタイム配信やオンデマンド配信が実現したことで、教員が他校の授業を気軽に見ることができるようになったことを補足し、「時間的にも精神的にも気軽に見ることができる」と、そのメリットを強調しました。

加えて、小学校・中学校合同で活動する中仙教の特徴を活かし、小学校の先生は中学校に進学にした子供たちの姿を見ることができる点にも言及。「各校の指導案を共有することで、 小中の学びが連携していることの実感にもつながりました」と述べました。

田中氏は他にも、各校のDX担当者による月2回ほどリモート会議、クラウド環境で使えるホワイトボードを活用した情報共有、対面とリモートのハイブリッド研修会など、クラウド活用を積極的に行っていることを説明。

クラウド活用が地域の職員をチームとしてつなぎ、小中のつながり、先生同士のつながりを生み出す成果があったと語ります。

今後取り組むべき課題としては、端末を見る習慣がない教員が情報共有不足に陥ってしまうことに言及。「誰も取り残さないためにも各校または合同でミニ研修を積み重ねていく必要性を感じております」と改善策についても説明しました。

そして 田中氏は「今後はもっと気軽に繋がれる場と機会を作り出し、更なる横展開を目指していきたい」と意欲を述べ、発表を締めくくりました。

富山県朝日町の取り組み

続いて発表を行ったのは、富山県朝日町立朝日中学校 教頭 上田勝氏です。

朝日町における端末の持ち帰り実現までの道のりを、4つの段階に分けて解説しました。

コロナ禍の課題解決に活用(第1期)

上田氏は、令和2年4月から始まる第1期はコロナ禍における課題解決に端末を活用したことを説明しました。

子どもの学習補助やストレスの軽減のために、どのように端末を利用するのが有効か検討を続けたと語ります。

上田氏はコロナ禍において「学びを止めない」をキーワードに、オンライン授業の実施が不可欠だと判断したことを解説。
オンライン授業を実施するうえで、端末の家庭への持ち帰りが必須と判断された経緯を語りました。

家庭のネット環境の調査、不具合発生時のフォロー方法、情報モラル指導、オンライン用授業の研修など、多くの課題に対して、PTAや地域の方との連携のもと、1つずつ丁寧に協議を重ねていったそうです。

緊急時の備えとして活用(第2期)

令和2年9月から始まる第2期は、緊急時における備えとして端末を活用した段階であることを説明。

コロナによる学級閉鎖や濃厚接触者指定による出席停止、自然災害による臨時休業や病気療養や不登校への対応のために端末の持ち帰りを行ったと語ります。

「第2期では教職員も子供も普段の学習でも端末を積極的に活用するようになっており、緊急時においても質の高いオンライン授業が実施可能となっていました」と述べ、第1期を通じて端末活用に慣れていったことを強調しました。

 一方で、端末持ち帰りによるカバンの重さや長時間利用による視力低下という課題が生じてきたことにも言及。 

教科書を学校に置いて帰る「置き勉」を容認し、子どもの負担を軽減したことは、保護者からも好意的に受け取ってもらえたことを補足しました。

クラウド環境を利用した学習ツールとして活用(第3期)

令和2年12月から始まる第3期は「個別最適な学びへ」をキーワードに、便利な学習ツールとしての端末活用方法を研究した段階であることを説明しました。

端末を家庭に持ち帰り、AIドリル学習や反転学習、協働学習のツール として利用していることを例示。

 「今やGIGA端末は学校だけでなく家でも、文房具の一部としてなくてはならないものになりました」と述べ、端末の持ち帰りが学びを支えていることを強調しました。

これからの時代における端末活用へ(第4期)

令和6年から現在に至る第4期は、これからの時代の端末活用について研究する段階であることを説明。

自律的な学習の推進、授業改善、生成AI、家庭学習におけるクラウド活用に特に力を入れ、「学習の主体者としての子どもを育てていきたいと考えています」と意欲を示しました。

上田氏は全体のまとめとして、「学校は変化に弱い一方で、慣れに強い集団である」という見解を発表。

状況の変化への不安を恐れずまずはやってみて、使い続ける中で徐々に慣れていく姿勢が重要になることを強調し、発表を締めくくりました。

山梨県甲府市の取り組み

続いて発表を行ったのは、山梨県甲府市教育委員会 学校教育課 指導主事 山主公彦氏です。

Google ChatやGoogleフォームをはじめとした標準仕様を使った端末活用について解説しました。

Google Chatを利用した校務改善

山主氏は甲府市立石田小学校における、Google Chatを利用した校務効率化の事例を例示しました。

石田小学校ではGoogle Chatをホワイトボードや校内電話の代わり、職員会議の資料提示など、多くの場面でGoogle Chatを活用していることを紹介。 

「出勤時に必ずGoogle Chatを確認する」というルールも定めており、この習慣をつけたことで、教員にとってGoogle Chatがなくてはならない存在といえるほどに普及できたと語ります。

この石田小学校の成功事例をもとに、甲府市の多くの学校にチャットの機能の有効性を伝えたと語る山主氏。

その結果、甲府市内のGoogle Chatのチャット利用数は令和6年度は令和5年度の倍以上の利用が実現したと説明します。

石田小学校の成功事例が市内の他校にも良い影響を与えたと、事例報告の効果を強調しました。

Googleフォームを利用した心の健康観察

続いて山主氏は、Googleフォームを利用した心の健康観察に関わる取り組みを紹介。

朝、子どもが登校した際にGoogleフォームを入力、その結果を教員が確認することで子どもたちの心の様子を毎日チェックする取り組みだと解説しました。 

Googleフォームでは気分や体調に加え、朝食を食べたかどうか、 昨日は何時に寝たかという事項を確認。

困ったことがある人はチェックボタンをつけるだけで報告できる環境を用意していることも紹介し、子どもが気軽に先生に相談できる環境が構築できたことを紹介しました。

実証の結果、子どもたちのマイナスな気持ちの件数が数ヶ月で減少していく様子がデータに現れていることを説明。

令和6年度は甲府市内の小中学校全36校で本活動を実施しており、「これらのデータを活用しつつ、今後も教員が子どもたちをサポートしていけるように進めていきたい」と意欲を述べ、発表を締めくくりました。

滋賀県湖南市の取り組み

最後に発表を行ったのは、滋賀県湖南市教育委員会 教育研究所 研究員 村田俊宏氏です。

甲西北中学校の生徒会におけるクラウド活用を中心に、GIGA端末の活用事例を発表しました。

クラウドを活用したアンケート調査

村田氏は最初に、甲西北中学校の生徒会役員が教育長に伝えた「GIGA端末は、なくてはならないものです!」 という言葉を紹介し、生徒会活動におけるGIGA端末の重要性を強調しました。

その一例として、生徒会が全校生徒に対してアンケートをとる際のクラウド活用事例を紹介。

これまで紙でアンケートを行っていた時には、生徒会と教員の間で、何往復ものやり取りが発生していたことを説明しました。

クラウドを活用し始めてからは、アンケートの実施、分析、まとめという全工程をノンストップで進められるようになったことを解説。

業務効率化におけるクラウド活用の有用性を強調しました。

クラウド活用による連絡の活発化

続いて村田氏は、生徒会役員の連絡におけるクラウド活用について紹介しました。

これまでは生徒会顧問が朝の打ち合わせで担任に集合の連絡、担任から生徒会役員に直接伝えるという流れで生徒会を招集していたと説明。

生徒会を招集する際のやり取りをクラウド活用によって簡略化し、今ではMicrosoft Teamsを利用して、生徒会のチームに日付・時間・場所に集合という連絡を行っていることを説明。

その結果、連絡の簡略化はもちろん、チャットのメッセージ確認のしやすさも相まって、招集の連絡を忘れることも減ったとメリットを強調しました。

また、生徒会役員同士の連絡にもGIGA端末を活用していることを紹介。生徒会役員は端末の持ち帰りを進んで行っており、放課後に協議しきれなかった内容をチャット上でやり取りしているそうです。

これまで対面で行っていた会議もクラウド上で済ませられるようになり、生徒会役員が部活動との両立をしやすくなったと説明しました。

クラウド環境を活用した資料作成

続いて村田氏は、新入生のための説明会資料作成でのGIGA端末活用方法を解説。

生徒会役員が撮影した写真を共有ファイルに集めてパワーポイントを作成し、それを新入生に発表したと説明しました。

村田氏はこのような活用事例が「GIGA端末は、なくてはならないものです!」という言葉につながったと説明。

 「これからも 生徒会役員だけでなく 湖南市 全ての児童生徒がクラウドの良さを感じることができるように 伴走支援を進めていきたいと思っております」と意見を述べ、発表を締めくくりました。

本学習会のまとめ

最後に、三井氏よる本学習会のまとめがありました。

三井氏はフレームワーク「OODAループ(ウーダループ)」を参照しつつ、入念に計画するよりも実際に動くことを推奨。
そこから得た反省をもとに改善を続けていく姿勢が大切であることを説明し、既存のルールに囚われずに柔軟にやり方を変えていくことの重要性も強調しました。

続いて三井氏はGIGAスクール構想の目標や方向性に触れつつ、できることから取り組んでいく重要性を説明。

長期的に達成していく目標についても、キーボード入力のスキル向上や端末活用の頻度向上といった基礎的な事項から始まることを強調しました。

加えて三井氏は、課題の解決のためのGIGA端末利用に積極的にチャレンジしてみてほしいと発言。

リーディングDXのウェブサイトでは事例や報告書の紹介、文部科学省のウェブサイトでは、過去の公開学習会の動画やGIGAスクール関係のウェブサイトをまとめたページを公開していることを紹介し、端末利用のヒントにしてほしいと述べ、本学習会を締めくくりました。