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熊本県高森町の実践報告 町を挙げて取り組むGIGA端末の活用とその工夫 リーディングDXスクール事業 公開学習会 リポート Vol.4

2024.1.17

2023年12月4日、リーディングDXスクール事業の第4回公開学習会がオンラインで実施されました。
12月4日の公開学習会では、熊本県高森町のGIGA端末活用事例や教育研究が紹介されました。
本学習会では「町を挙げて取り組む」という内容の元、高森町全体の取り組みについて、現場からの視点・客観的な分析をもって解説されました。
本記事では、公開学習会の発表内容と質疑応答の様子をリポートします。

登壇者

熊本県高森町教育委員会 教育長 古庄泰則 氏
中村学園大学教育学部 教授/メディアセンター長 山本朋弘 氏

高森町の教育の特徴

最初に、熊本県高森町教育委員会教育長の古庄泰則氏が高森町のGIGA端末の活用事例や、端末を利用した教育への取り組みを紹介しました。

まず古庄氏は、高森町における教育の特徴として、学校、教育委員会、行政が一体となって取り組んでいると話しました。

例えば高森町の草村町長のマニュフェストには、「誇りと夢と元気を生み出す、教育による「町づくり」」が掲げられており、情報化を基盤とする中核に教育が位置付けられています。

また高森町教育委員会では、「教育は人なり」「確かな教育ビジョン」「ビジョンの共有」の3つの戦略を立てて教育改革が進められています。

特に「確かな教育ビジョン」の中の「高森町新教育プラン」については、学校現場にとって、教育の推進の根拠となっている、と語りました。

このように、町長、議会、市民のトライアングルがうまく作用していることこそ、高森町の現在の姿であると古庄氏は指摘しました。

加えて、古庄氏は教育DXを推進していく上で、大切なのは組織体制であるとも言います。

こうした組織体制についても、高森町教育委員会では、文部科学省や熊本県教育委員会、大学教授を始めとする外部有識者を含めた「高森町教育研究会」を開設し、“学校”という枠を超えた研究を進めていると語りました。

自立した学習者育成への取り組み

続いて古庄氏は高森町における「自立した学習者」の育成に関するこれまでの高森町の取り組み・研究の流れを紹介します。

高森町では平成24年度から、授業過程におけるICT機器の効果的な活用を目指す「教育の情報化」研究を開始しました。

この際、課題解決型学習モデルの「たかもり学習」が確立されたことにより、町内全ての授業者(教師)が、共通認識のもとで授業改善を図ることが可能となったと言います。

また、令和元年からは、1人1台の端末とクラウドサービスを利用して学び方の変革を図る「新たな学び」についての研究を開始しました。

文部科学省の遠隔教育に関する委託事業を継続して受託し、教室の枠を超えた遠隔合同授業や、授業と家庭学習との連動を図る研究をしてきました。

こうした研究・取組から、コロナ禍においても、いち早くオンライン授業の取り組むことができたと言います。

端末活用の実践事例

続いて、高森町における端末活用の11の実践事例の紹介がありました。

デジタルワークシートやクラウド環境を利用した学習、家庭での端末を利用した学習、オンライン環境を利用したスライドの共同編集やWeb会議を利用した学習の様子など、様々な実践を取り上げました。

実践事例③〜④では、子どもたちが教師に代わって授業の進行をしている様子の紹介がありました。

この学びの選択・調整を自主的に行うガイド学習によって、自立した学習者に必要な、自ら課題を設定して解決への過程や方法を決定する力を養う狙いがあることを示しました。

また実践事例⑦では、義務教育学校の5年生から8年生が共同作業を行う異学年合同授業の様子を紹介し、上級生の姿を通して、下級生の自立した学習者としての資質・能力を向上させる狙いがあると語りました。

なお、実践事例⑨、⑩では、教師間でのクラウド環境の活用の事例についても紹介がありました。

高森町の教員は、児童生徒と同じ学習用のタブレット端末と、校務用のノートパソコンの2台を使用しており、クラウド環境の活用によって教師のICT活用指導力向上も狙っていることが説明されました。

高森町タブレット図書館について

古庄氏は実践事例の紹介の中で、高森町・高森町教育委員会・熊本日日新聞社が連携協定を結んでスタートした、「高森町タブレット図書館」についても説明します。

タブレット図書館は約一万冊の蔵書があるデジタル図書で、古庄氏は「タブレット端末であれば、一冊の書物を一斉に閲覧することが可能になること」「重たい図鑑を持ち出すことなく、屋外での調査活動もできること」といった利点を解説しました。

令和5年7月には小学生以上の全町民にアカウントが発行され、学校での活動から、住民向けの活動にまで拡大されていることを述べました。

このような取組実践を通し、教育を中心として、町全体で動く高森町のDXの姿が紹介されました。

今後の教育DX推進について

最後に古庄氏は、今後の教育DX推進について説明しました。

これまで展開してきた「高森町新教育プラン」を拠り所にし、今年度、第4次改訂を実施。

『学びのDXの推進』『多様性への対応』『教職員の働き方改革』この3つの柱で教育DXを推進していくと表明し、高森町の事例・取組に関する発表を締めくくりました。

質疑応答

続いて、古庄氏から事前に寄せられた質問について回答がありました。下記では質問の内容と古庄氏の回答を一部抜粋して紹介します。

端末持ち帰り学習推進に関する具体策はあるのか?

Wi-Fi環境のない家庭における端末利用について、ポケットWi-Fiの貸し出し、Wi-Fi環境整備のための経済支援に取り組んでいる。

また、端末の持ち帰りを推奨していることや、端末持ち帰りの際に発生した破損の修理費用についても説明がありました。破損が発生した場合には、家庭・学校・町でそれぞれ三分の一の費用を負担している。

OSやクラウドなどのICT環境はどのようになっているのか?

OSはChromebook。特別な授業支援アプリは現在使用しておらず、標準仕様で整備されたツール(GoogleやMicrosoftの表計算ソフトなど)を使用している。先生主導ではなく、子どもが主体的に使用できるツールを活用している。

ガイド学習ではどのようなスキルアップ効果を見込めるのか?

生徒間で教育・学習を行うガイド学習のメリットとして、先輩、上級生を見て新たなものを獲得していくという点は大きい。また先輩も後輩に手本を示すことによって自分たちを確認できる、不確実なものが定着していく。

つまり、先輩・後輩ともに学習をさらに深め、定着させる効果がある。

今後の授業の指導に関する考え方はどのようなものか?

児童生徒が自分の意思でこうした、という授業構想になるようにしていくべきだろうなと思っている。子どもたち自身が自分たちの学びを構想していけるようになってくれればと期待している。

また古庄氏から、視聴者から寄せられた「先生と生徒との距離感が近い」という感想に対しても言及があり、「子どもと一緒に伴走する教師であってほしい」との意向が示されました。

先生が教える、引っ張っていくのではなく、子どもが困ったときの支えとなるような教師像を理想として示し、そのためには1人1台の端末活用が重要になることを再度強調して質疑応答を締めくくりました。

高森町の教育に見るGIGA端末活用の強み

質疑応答ののち、続いて中村学園大学教育学部教授/メディアセンター長の山本朋弘氏が高森町の教育に関する本学習会のまとめを行いました。

古庄氏が現場から見た高森町の教育を中心に発表したのに対し、山本氏は高森町の教育の客観的な分析を中心とした発表を展開します。

教育の情報化における3つの視点

山本氏は、高森町の教育の情報化は「情報教育の推進」「授業でのICT活用」「校務の情報化」の3つの視点がバランスよく進められていると語ります。

また、このような視点が、管理職、教育委員会をはじめとした関係者間で意識合わせができており、組織規模での授業改善を円滑に進められている要因になっているとも分析しました。

加えて、文部科学省や熊本県といった他の組織との連携も、高森町の教育の質を高めている大きな要素だと解説しました。

GIGA端末の活用による働き方改革

続いて山本氏は、GIGA端末を活用した働き方改革についても言及しました。

丁寧な指導は、ときに子どもの自主性の減退につながることを示しながらも、子どもに情報を取りに行くための教育を行って自走を促すことは、教員の働き方改革にも必ずつながることを強調します。

またこのような取り組みは、現在のようにGIGA端末の活用期から発展期に進んでいる中で、授業観を変えていくためにも重要なことであると考えを述べました。

ただしGIGA端末を活用していく上では、多くの試行錯誤・失敗の中で学ばなければ共通理解には繋がらないこと、情報端末だけを“どのように使うか”ではなく、従来の指導で必要/不要な内容の見直しを行うことが大事であるとも指摘しました。

教師主導から子ども主体の学びへの移行

山本氏は「今後、子ども主体の学びは確実に必要であり、それに伴い、子どもたちの学習方法も再構築する必要がある」と再度強調しました。

こうした必要性から、現在高森町では、様々な学習方法を子ども達自身が高め、その中で、教師の教材研究・子どもたちの学習スキルを上げていくといった取り組みが進められていると言います。

こうした取り組みについて、子どもたち自身が授業内の時間配分を決定する様子や、板書を子供たち自身が撮影し、情報の共有、授業の振り返りがクラウド環境で行われている様子など、具体的な事例を挙げて紹介しました。

また、小規模の義務教育学校である、高森東学園での事例も解説します。ここではテレビ局の協力のもと、地域活性化のための映像制作を小学校5年生から中学校2年生の異学年合同で行われている様子が紹介されました。

司会進行を上級生が行い、教師は脇で見守る立ち位置となっていることが特徴的で、上級生の進行や振舞い、表現の仕方を下級生が学んでいる様子が示されています。

山本氏は「まねるところから始まるものはかなり大きい」と見解を示し、ガイド学習における児童生徒間の学習の重要性を強調しました。

高森町の学習形態の変遷について

山本氏はこれまでのまとめとして、高森町の学習形態が従来の一斉指導から協働的な学び、個別的な学びに変遷していることを説明します。

また、ここで重要なことは教師の授業力、つまり教材をしっかり解釈して再開発・作り出す力であると解説しました。

教師が学習を効率化する従来のICT活用に加え、1人1台の端末活用という状況をより活かせる教材の解釈や、教師が寄り添って支援する意識が大切だと語りました。

学校におけるICT活用の段階について

最後に、山本氏は学校でのICT活用について、従来の授業観から学習者中心の授業観に再定義すべき段階であることを指摘しました。

これまでのデジタル活用で授業の効率化は進んでいる一方、新たな学びの形を生み出すには至っていないことにも言及し「ICT、GIGA端末をどう使うかということに加え、授業をどう変えていくかということも大事なことだろう」と見解を示し、発表を締めくくりました。