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子どもが自分でツールを使い分ける仕組みとは|鹿児島県の2つの指定校から学ぶ授業改善 リーディングDXスクール事業 公開学習会 リポートVol.2

2023.10.5

2023年7月28日に実施された“リーディングDXスクール事業”第2回公開学習会では、鹿児島県内の2つの指定校の実践事例が紹介されました。
鹿児島県のICT活用では、児童生徒と教員に同一ドメインの“県域アカウント”を配布し、豊富なアプリ・ソフトの中から自分にあったツールを選んで活用していることが特徴的です。
本記事では、公開学習会の様子と、事前に寄せられた質問に対する回答をリポートします。

ファシリテーター

鹿児島市教育委員会 学校ICT推進センター所長 木田博 氏
垂水市教育委員会 学校教育課 主幹兼指導主事 今村圭 氏

登壇者

垂水市立垂水中央中学校 教諭 西村八郎 氏
鹿児島市立田上小学校 教諭 寺園麻衣 氏

鹿児島県の特徴

まずファシリテーターを務める鹿児島市教育委員会の木田博氏より、鹿児島県での“県域アカウント”の運用について解説がありました。

「鹿児島県では、43の市町村全てで同じドメインのアカウントを、小学校・中学校・県立高校の児童生徒と先生方に配布しています」と語り、一つのアカウントにOffice365とGoogle Workspaceの両方が紐付けされていることを紹介しました。

これにより、転校・人事異動があったとしても同一アカウントの継続使用が可能で、子どもが、中学校、県立高校に進学しても、同じアカウントを使い続けられるメリットを強調しました。

「こうした環境の中で、子どもたちが目的・特性・学習スタイルに合わせて、ツールを使い分けて活用していることが、今回の実践のポイントです」と語り、2校での実践紹介へと移りました。

垂水市立垂水中央中学校の事例

最初にオンライン登壇した垂水市立垂水中央中学校の西村八郎先生からは、まず垂水市でのGIGAスクール構想における特徴的な取り組みとして、自宅にWi-Fi環境が整っていない家庭向けにWi-Fiルーターを貸し出したり、小規模校同士を日常的にオンラインでつなげる遠隔合同授業を実践したりしていることが紹介されました。

授業改善とオンライン授業へのさまざまな取り組み

垂水中央中学校では、MicrosoftのOneNote、PowerPoint、Forms、Microsoft Teamsなどを導入し、各教科や担当が各自使いやすいものを使用しながら、授業改善・業務改善に取り組んでいると語りました。

中でも授業改善の視点から、“アナログとデジタルのベストミックス”をテーマに本年度実施してきたことを強調しながら、「国語科では作品の共有、社会科では資料の収集・共有、数学科ではノートやタブレットの使用など学習方法を生徒自身に決めさせる取り組みを実践してきました」と紹介しました。

さらにオンライン授業の一環として、体育大会のソーラン節の練習を校庭から配信したり、全校朝会での表彰式を校長室から各教室に配信したりといった取り組みも実践しているといいます。

「生徒会役員選挙では、候補者・応援演説者が被服室から配信を行いました。令和3年度の投票はタブレット端末を使用して電子投票、令和4年度には垂水市から実際の選挙で使用する記載台・投票箱を借用して実施しました。」

また、市内の小学6年生を対象とした体験入学では、体験授業を終えての感想をFormsを通じてアンケートを取り、後日Microsoft Teamsを利用して市内全ての6年生が閲覧できるように整えたのだそうです。

デジタル化の推進による業務改善

続けて西村先生は、「業務改善の視点から、本校では令和3年度より各種委員会の配布資料をデジタル化しています」と語り、Microsoft Teamsの共同編集機能を活用しながら、職員会議や職員研修なども実施しているといいます。(垂水中央中学校では職員会議・研修で全員がOnenoteを使用しています)

他にも生徒・職員・保護者を対象とするアンケートや、職員向け体温チェックシートなどもデジタル化したことにより、配布・集計にかかる時間や用紙の使用量を大幅に抑えることができたと語ります。

「令和3年度途中より欠席黒板を電子化し、職員室にいなくても欠席者の確認ができるようになり、学校での保護者との電話対応も減りました」と述べました。

実践の成果と今後の課題について

以上のような取り組みの結果、職員対象のアンケートでは、『一人一台端末の導入によって業務が改善された』と感じた職員が15名中14名にのぼったといいます。

一方で今後の課題として、学校や家庭できまりを守ってタブレットを利用しているかを質問したところ、きまりを守っていると回答した生徒が多い反面、きまりを確認していると回答した保護者が少なかった結果を示しながら、生徒と保護者との間で意識に差が出ていることを指摘しました。

「そこで本校では、令和3年度より“タブレット端末活用のきまり”を文書で配布し、生徒への全体指導や、生徒・保護者向けの講演会を実施しました」と具体的な取り組みについても紹介がありました。

質疑応答

続いて事前に寄せられた質問に対して、西村先生が回答しました。

職員間で足並みが揃わないなど、授業を進める上で難しいことはなかったか?

「本校ではまずペーパーレス化を実施し、Microsoft TeamsとOneNoteを使って業務改善を行いながら、そのアプリをそのまま授業で使い始めました」と西村先生は語ります。

「コロナ禍でもオンライン授業や全校朝会のオンライン配信など、全体でできることをまずは実施しました」と述べ、まずは先生たちがクラウド環境を活用して業務を進めながら、授業にも取り入れたという流れであることの紹介がありました。

年度当初の全体指導(ギガ開き)は具体的にどのように実施したのか?

こちらの質問に対して西村先生からは、「“端末活用のきまり”を紙で配布し、それを見ながら職員の方から1時間、全体指導を行っています」と回答がありました。

令和3年度と令和5年度を比べて、指導内容の重点は変わったか?

「“端末の使い方”の指導から、子どもたちや保護者を交えて“端末をどう使っていくべきか”が指導の中心になっているかと思います」と西村先生が回答します。

つまり、電源の入れ方やログインの仕方といった指導がだんだんと不要になり、指導内容にも変化が起こっているとファシリテーターの今村氏が総括しました。

端末の充電保管庫はどうなっているか?

「現在は子どもたちに端末を持ち帰らせて、家で充電するように声をかけています」と西村先生が回答しました。

それでも充電が足りなくなる場合には教室で充電はできるとしつつも、持ち帰って家庭で充電することが基本なのだそうです。

ICT活用に不安感がある先生をいかに巻き込んでいくべきか?

「まずは短時間で研修を行い、隣同士の先生で質問をしたり、できる職員で質問に答えて手伝ったりしながら、“繰り返しお手伝いをする”という形を取っています」と西村先生は語ります。

続けて「授業でも校務でも、まずは使ってもらうことが、全体が動き出すポイントです」と述べました。

鹿児島市立田上小学校の事例

次に鹿児島市立田上小学校の寺園麻衣先生が登壇し、6年生の国語科の授業での実践事例について紹介がありました。

田上小学校の国語科では、1年生の時から主体的・対話的で深い学びについて、教児一体で追い続けてきたといいます。

一人一台端末がスタートしてからは、アナログ・デジタルの選択・決定についても、子ども主体で行っていると語りました。

田上小学校の国語科では、必ず言語活動のモデル分析を行い、学習課題・問い作りを進めているとの紹介があった上で、「子どもたちの提案資料がオリジナリティに欠け、ユニークな作品が出にくいという課題がありました」と直面していた課題について解説しました。

子ども一人ひとりが自ら発表形態を選ぶ

「そこで本単元の重点指導事項だけを押さえられれば良いと、思い切ることにしました」と語り、提案テーマ・学習形態・アプリまでを子ども一人ひとりが選択・決定する単元学習を実施したといいます。

単元内では“自由進度学習”を一部取り入れながら、情報収集や共有・整理について対話を通して実施し、「提案資料の作成では、構成の中でどこに力を入れれば説得力のある提案ができるのかを気をつけてきました」と語ります。

続いて発表の際には、一人、ペア、三人など、発表の形態も自分たちで選択できるようにしたのだそうです。

「私がおもしろいなと感じたのは、調べたり資料を作成したりする時はグループだったけれど、発表では一人である、またはその逆もあるなど、自分の興味関心や学習状況に応じて発表形態を選んでいたということです。」

発表・共有の過程では、友達の発表内容について感想を述べられるようにすることに加え、“友達のアプリ選択の意図を推し量る”ことを重視したといいます。

友達が使用したアプリの意図を推し量る

共有する時間では、個人の思いや感想を自由に発表するのではなく、友達が使用したアプリについての考えについて絞りながら、交流発言を促したのだそうです。

「学級内ではほとんどの子がPowerPointを用いたのですが、一人だけ提案資料をWordで作成した子がいました」とのことで、その子の背景として寺園先生は、「彼女は校内で配布されるチラシが資源としてもったいないという考えを持っており、テーマと掛け合わせてWordを選択、(プリントを配布せず)その画面だけで想いを伝えると良いと考え発表を行いました」と解説します。

その子の発表に対する振り返りの中で、『テーマと発表の仕方を結びつけて聞く人の心を掴むのは、とてもすごいと思った』と、感性を働かせて書いている子の感想を紹介しながら、アプリの選択の意図を推し量りながら聞くことができていることを強調しました。

「今後も日常の授業の中で、学習者主体の授業のあり方を、アナログとデジタルのバランスを取りながら模索していきたいと考えています」と述べ、事例紹介を締め括りました。

質疑応答

続いて、ファシリテーターの木田氏、今村氏からの質問に対して寺園先生が回答しました。

子どもがツールを選択するために各ツールの良さや機能をどう学ばせてきたのか?

この質問に対して寺園先生は、PowerPointやWordそのものについては端末の中にあるので、子どもたちも認知していたが、使ったことはない状況だったと説明しました。

「そこから私の方で簡単に使い方を伝えたり、NHKの動画を見せたりしながら、ツールの良さや特徴を把握できるように促しました」と回答がありました。

子どもたちの多くがPowerPointをツールとして選んだ理由はどこにあると思うか?

「子どもたちは最初、プレゼンテーションソフトのアニメーションや切り替えなど、物珍しいところに惹かれた部分も正直あると思います」と寺園先生が回答します。

寺園先生の発言を受けて、ファシリテーターの木田氏は「私が授業を拝見した際には、1枚のスライドで画像やテキストをどう配置するのが効果的かを突き詰めながら、アニメーションの効果を活用していたと思います。今後はさらにブラッシュアップされていくのではないかと感じました」と総括しました。

子どもたちにツールや学習形態などを選択・決定させたことで学びはどう変化したか?

「資料作成や提案における、目的意識や相手意識、これまでの学習履歴を含め、資質・能力の発揮の仕方が大きく変化したのではないかと思います」と寺園先生が回答しました。

寺園先生の発言を受けて木田氏は、「あえて違うツールを取り入れて子どもたちに選択させることで、想像力豊かな発表ができたのではないかと感じました。目的に沿って自分で決める・選ばせることに大きな意味があったと思います」と総括しました。

今後お二方の学校で取り組んでみたいことはあるか?

この質問に対して、まず西村先生からは「夏休み中の研修で、CBTについて先生たち全員で考えていけたらと思っています」と回答がありました。

続いて寺園先生からは、「本校では学習支援ツール一択という部分がまだあるので、より多くのアプリをどの職員でも使えるよう、そして学習履歴を子どもたち自身も自由に出し入れできるような校内のクラウド環境の整備を進めていきたいと考えています」と回答がありました。