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指定校の実践事例から学ぼう! リーディングDXスクール事業 公開学習会 リポート Vol.10

2024.9.10

2024年7月30日に実施された“リーディングDXスクール事業”公開学習会にて、宮城県仙台第三高等学校、岡山県立林野高等学校の取組実践が紹介されました。

本学習会では各校が行っている特徴的な取り組みが紹介され、高校におけるGIGA端末の活用方法や標準仕様に関する実践事例を共有する場となりました。

本記事では公開学習会の発表内容と、質疑応答の様子をリポートします。

登壇者

宮城県仙台第三高等学校 教頭 高瀬琢弥 氏

岡山県立林野高等学校 教頭 下山晋 氏

司会・進行
東京学芸大学大学院 教育学研究科 准教授 学校DX戦略アドバイザー 登本洋子 氏

リーディングDXスクールの概要と本学習会の趣旨説明

本学習会の司会・進行を務める、東京学芸大学大学院 教育学研究科 准教授 学校DX戦略アドバイザー 登本洋子氏から、リーディングDXスクール事業の概要および趣旨説明で開始。

登本氏は生徒の情報活用能力の育成、個別最適な学びと共同的な学びの充実、校務DXといったリーディングDXスクール事業の主旨を説明しました。

続くスライドで登本氏は、公立高校の端末整備状況を紹介。
「整備完了がゴールではなく、整備の完了がスタートです」と補足したうえで、さらなる端末活用を促しました。

また、令和6年度の小学校・中学校を対象とした全国学力学習状況調査では「ほぼ毎日端末を活用している」「週3回以上端末を活用している」という回答が90%以上を超えている現状を説明。

「小中学校で端末活用が進んでいる現状を鑑み、高校でもこの流れを止めないための環境整備について考えられれば」と述べて各校の事例紹介に入っていきました。

宮城県仙台第三高等学校の取り組み

最初に発表したのは宮城県仙台第三高等学校 教頭 高瀬琢弥氏です。

高瀬氏は、仙台第三高等学校で行われている組織改革や授業実践について発表しました。

組織的な授業改善

高瀬氏はまず、仙台第三高等学校における組織的な授業改善についての説明を行いました。

本校では授業改善の取り組みが積極的に行われており、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)としての取り組み、授業改善、ICT導入を相互に関連させながら進行していることを説明。

令和2年にはさらなる授業改善を推進するための「図書ICT部」を設立するなど、ICTを積極的に活用するための基盤整備に力を入れていることを強調しました。

高瀬氏はICT活用による校務DXの例として、職員会議を電子化によって時短に繋げていることを紹介。 OneNoteに資料を一元化することで、職員会議を30分程度まで短縮することに成功したそうです。

加えて高瀬氏は仙台第三高等学校で行われている、授業改善を目的とした企画を紹介しました。全国から教育関係者が参加する毎年12月の「授業づくりプロジェクトフォーラム」を開催し、全国から著名な教員を招聘して授業を行っているそうです。

また、仙台第三高等学校では教員同士で積極的に授業参観を行う雰囲気があることを紹介。OneNote上で共有した授業情報をもとに、多くの教員が授業に参加している様子をスライドで示しました。時には参観に訪れた教員も指導に参加し、教科横断的な授業が展開されているそうです。

インタラクティブ型授業の実践

高瀬氏は教室内での学びにとどまらない、インタラクティブ型学習にも言及しました。

中でも本学習会では、京都の立命館宇治高校との遠隔合同授業にフォーカスして解説。

Jamboardやスライドを使いながら、文化の異なる地域の高校生との意見交換を行い、和歌を創作する生徒の様子を紹介しました。

高瀬氏は、大学の留学生のもと実施している生徒主体発表型授業にも言及。

英語でのプレゼンや質疑応答をする中で留学生との交流を行い、言語運用能力を高めることができていると語ります。

ICT利活用授業の実践

続いて高瀬氏は、ICTを利活用した授業の実践について解説。その一例として、数学の反転授業を紹介しました。

生徒は教員が作成した学習動画を授業前に視聴してから授業に臨み、授業で学んだことを再び家庭で復習することで、授業と家庭学習を結びつける意図があると説明。

作成した学習動画はGoogleサイトで共有されており、病気療養中や不登校等の生徒の学びにも役立っていることを強調しました。

続くスライドで高瀬氏は、地元民間データ分析会社、百貨店、宮城大学の協力のもと行われている、ICTを利活用するデータサイエンスの授業実践に言及。

ビッグデータの相関係数を使い、実際に販売戦略の策定を行う実践型授業を行っていることを紹介しました。

高瀬氏は実際に生徒がデータ分析しながら資料を作成する様子を示し、ビッグデータを利用した授業実践が根拠付けや論理的思考を磨き、劇的に探究学習の質を高めることを強調しました。

高瀬氏はこれらの実践の結果、生徒の情報活用能力が大きく伸びていることを発表。生徒の自主性・主体性が増していることを強調しました。

また、探究学習のロールモデルを創出することが他校の探究学習の質を高めることに繋がっていることを解説。当校の生徒が日本代表として国際大会でも発表を行っており、他校の探究学習の発展に寄与していることを強調しました。

教員の成果としては、授業計画を立て、教科ごとのチーム力が発揮されたことで教材研究の分担志向が業務改善にもつながっていることを指摘しながらも、ICTを活用した学習が生徒の積極性や学習意欲の向上を促し、進路実績にも繋がっていることを補足しました。

基盤整備と業務改善

さらに高瀬氏は、ここまで紹介した実践の基礎ともいえる、仙台第三高等学校におけるICTの基盤整備と業務改善について解説。学校が推奨した端末を学校に持参するBYAD方式でChromebookを活用したICT教育を推進していることを説明しました。

Chromebookを生徒に購入してもらうメリットや利用するメリットを紹介。
生徒全員が同一の端末を使用できるBYAD方式の特性を活かし、端末の初期設定や配布後のガイダンス等を組織的に行える強みを強調しました。

高瀬氏は教員を対象とした、ICTに関する資質向上研修(通称:ちょこ研)も行われており、高い効果を発揮していることにも言及します。

運営の方針として、短時間で随時開催できる、有志での参加、レベル・内容を教員に合わせるといったことを挙げ、これらが効果的な研修を実現していると語りました。

最後に高瀬氏は、図書ICT部の重要な役割としてホームページの管理を紹介。ホームページについて、探究学習に関するノウハウや実践事例を共有する場として活用していることを強調し、発表を締めくくりました。

宮城県仙台第三高等学校の取り組みに関する質疑応答

高瀬氏の発表の最後には、宮城県仙台第三高等学校の取り組みに関する質疑応答の時間が設けられました。

「情報活用能力についてどのように指導をされていますか?」という質問に高瀬氏は、情報活用・モラル研修を教員・生徒双方に行っていると回答。

また、端末を使用する頻度の重要性を述べ、日常のほか、生徒総会や文化祭といった行事においても積極的に端末を活用し、慣れてもらう重要性を強調しました。

岡山県立林野高等学校の取り組み

続いて、岡山県立林野高等学校 教頭 下山晋氏による発表に移ります。

下山氏は林野高等学校における実践の概要と成果、課題と今後の展望について発表しました。

林野高等学校のICT環境

下山氏は最初に、林野高等学校のICT環境を紹介。BYAD方式によってChromebookを使った1人1台端末を実現、全教室にプロジェクタースクリーン、敷地内wi-fi完備といった、先進的なICT環境を用意していることを説明しました。

「コロナ禍においても充実したICT環境を活かし、大きな改革を行わず、学びを止めることなくコロナ禍を乗り切った」と語ります。

また、2016年からこれまで行ってきた授業の改善について、実践のロードマップを参照しながら解説。授業改善の土壌、風土が定着していることが、スムーズな授業改善につながっていることを強調しました。

林野高等学校における実践の概要

下山氏は林野高等学校において、「授業改善に向けた研修、先進校視察、情報発信・横展開」の3つの柱を大切に、リーディングDX事業を進めてきたと語ります。

1つ目の事業改善に向けた研修については、職員会議を短くして十分な研修時間を確保していることを説明。「外部講師の招聘、長期休業中の研修実施等も行って、充実した研修体制を授業改善につなげている」と語ります。

2つ目の先進校視察については「他校との交流がなければ新しいものが見えてこない」という姿勢のもと、日本全国の高校に視察に赴いているほか、全国の高校から林野高等学校への来訪も受け入れていると語りました。

3つ目の情報発信・横展開については、視察によって学んだ事柄を公開研究授業や他校のセミナーへの参加を通じて積極的に発信していることを強調しました。

授業観の転換の重要性

下山氏は、授業観を転換していくことが林野高等学校における取り組みの重要なポイントとなっていることを説明します。

「生徒一人ひとりを主語に」「個別最適な学び」「共同的な学び」といった、令和の日本型学校教育を目指し、これらを実現するためのICTが必要不可欠であることを強調しました。

また下山氏は実践の成果として「授業改善、家庭学習の充実、校務の効率化」の3つを提示します。

授業改善については、ICTを利用した途中参照・他者参照の実現によって、生徒主体の授業を実現したことを紹介。クラウドを活用した振り返りと学びのポートフォリオ作成により、メタ認知と自己調整を促進できたことを例示しました。

家庭学習に関しては授業と家庭学習の一体化を目指し、各生徒に応じた課題解決や反転学習を実践していると語ります。

校務の効率化にはGoogleスプレッドシートやGoogleワークスペースなど、GIGA端末の標準仕様を活用。Googleチャットを利用した情報共有が、リーディングDXスクール事業の校内での機運を高めることに繋がったと語ります。

課題と今後の展望

ここまでの話題を受けて、下山氏は課題と今後の展望の説明に移ります。

今年度当初から校内組織の再編を行っていること、そして「自律的に探究できる生徒の育成や、それを実現するための学習計画に沿った学びを推進していく」と今後の展望を提示しました。

さらに下山氏が旗振り役として取り組んでいる事項として「実践事例の広報、研修・セミナー等への教員派遣、地元市町村教委との連携」等を紹介。

新たなものに対して挑み続けることを重視し、今年度の目標にも採用したことを述べ、発表を締めくくりました。

岡山県立林野高等学校の取り組みに関する質疑応答

家庭学習および家庭学習事例集を深掘りしてほしい、という要望に対して下山氏は、反転学習の重要性を再度強調。

授業と家庭学習を一体化できるような取り組みに、特に注力してきたことを説明しました。

もう一つの質問は先進校の視察にかかる予算はどのように工面したかというものです。こちらの質問に下山氏は「リーディング DX事業で割り振られた予算を可能な限り先進校の視察に回し、教員間の授業観を変えることを最優先の予算建てを行った」と回答しました。

登壇校への質疑応答の時間

続いて、岡山県立林野高等学校、仙台第三高等学校の双方に向けた質疑応答の時間が設けられました。

ICT活用を推進する体制作りはどのように行っていた?

高瀬氏は「図書ICT部を新しく創設した時には、図書ICT部のリーダーがICTに熟達していない教員だった」と、当時の状況を紹介。

リーダーが困ったことを周囲に共有しつつ、みんなで協力して解決していく体制づくりを行っていたと説明しました。

そして下山氏は複数箇所に及ぶ組織改編に加え、ICT活用を行うための優れた環境を活かした体制づくりを行ったことを強調。

大学教授と連携しつつ、ロジックに基づいた実践を継続することを重視していたと補足しました。

教員の業務負担は大きくなりすぎないか?

高瀬氏は端末を活用した業務改善を積極的に推進・実践していることを強調。

「教科ごとにチームを組み、1人の教員に過度な負担がかからないよう配慮している」と、具体的な工夫を紹介しました。

下山氏は業務の基礎が確立するごとに、少しずつ教員の負担を減らせていると回答。

「業務改善を進めるには、どうしても教員に一定の負担がかかってしまう」と負担の増加は認める一方、教員全体でノウハウを蓄積・共有することが、着実な業務改善につながっていることを強調しました。

DX推進が大学受験に影響するのでは?

高瀬氏は、「現状ではDX推進が大学受験に特別大きな影響を与えていることはない」と回答。

大学受験の先まで見据えた教育を重視している姿勢を示し、リーディングDXによる探究学習が世の中を生き抜く上で大事な力を養うことを強調しました。

また下山氏も高瀬氏の発言に同調します。

従来の受験対策・知識偏重の学びに加え、学び方を学ぶことができる探究学習を行うことで、学びに向かう力、学び続ける力を育てる重要性を強調しました。

本学習会のまとめ

最後に、登本氏による本学習会のまとめがありました。

登本氏はリーディングDX推進のヒントとして、リーディングDXスクールのホームページを参照することを推奨します。

具体的な実践事例や昨年度の公開学習会の動画を参照できることはもちろん、地区、日程等の条件を指定して公開授業、公開学習会の検索もできるため、積極的に活用してほしいと紹介しました。

最後に登本氏は「わからないことがあれば学校DX戦略アドバイザーも上手く活用しつつ、 リーディングDXを推進してほしい」と積極的に相談することの重要性を訴え、本学習会を締めくくりました。