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「教える」授業から「自ら学ぶ」授業へ|愛知県春日井市の”1人1台端末”実践事例

2023.9.1

リーディングDXスクール事業 公開学習会 リポートVol.1

GIGA端末とクラウド環境を活用することで、児童生徒の情報活用能力を育成し、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の充実を目指す”リーディングDXスクール事業”の一環として、2023年7月6日、全国の教職員の方々を対象とした公開学習会がオンラインで開催されました。

第1回の公開学習会では、「リーディングDXスクール事業 指定校の実践事例から学ぼう!」と題して、春日井市の指定校である高森台中学校、藤山台小学校の事例が紹介されました。

本記事では、公開学習会の中で紹介された2校での実践事例に加え、参加者の方々から事前に寄せられた質問に対する回答をリポートします。

ファシリテーター

春日井市教育委員会 教育研究所
教育DX推進専門官 水谷 年孝 氏

登壇者

春日井市立高森台中学校 教頭 小川 晋 氏
春日井市立藤山台小学校 教諭 久川 慶貴 氏

1人1台端末・クラウド活用による春日井市の授業の変化

はじめに、春日井市教育委員会の水谷 年孝氏が登壇し、公開学習会の趣旨について紹介がありました。

水谷氏によれば、春日井市内の小中学校と共有する大きな目標として『生涯にわたって自ら学び続けられること』そして『一人一人を大切に』というテーマを掲げていると語ります。

この目標のもとで30ヶ月にわたる1人1台端末およびクラウド活用に取り組んだ結果として、児童生徒のコミュニケーションの増加、アウトプットの量・質の向上、そして「教える」授業から「自ら学ぶ」授業への転換が起こったといいます。

では、どのようにしてGIGA端末やクラウド環境を授業・校務に取り入れ、日常的な活用を浸透させていったのか、その成功の秘訣について事例とともに紹介していただきました。

コロナ禍での経験を活かした中学校での実践事例

春日井市立高森台中学校で教頭を務める小川 晋先生は、まず「生涯にわたって自ら学び続けられる子どもたちを育成する」という理念のもとで、体育の水泳の授業、音楽の授業など、教科を問わず日常的なICT活用を進めていると語ります。

その根底にあるのは、コロナ禍において教職員が何もできず、子どもたちも何も学習できない状況を生み出してしまった反省があるといいます。

実践事例として、社会科の授業における「乾燥した土地に暮らす人々」の単元を取り上げ、授業の流れについて説明しました。

Google Classroomで大量の”情報流通”が可能に

小川先生の授業では、単元の流れ・単元課題についてGoogle Classroomを使用して生徒に示すことから始まります。

今回は「乾燥した土地に暮らす人々」の単元を例に挙げ、教科書のメインの写真の読み取り、雨温図の読み取り、そして仮説の立案から検証、ディスカッションまでをすべてGoogleスプレッドシートやGoogle Chatを活用して進めているといいます。

その結果、現在では授業中に教室全体に指示することは極めて少なくなり、子どもたちが自主的に動きながら授業を進めているのだそうです。

このような授業を実現できた背景には、Google Classroomを用いて「大量の情報を教室内で流通させることが可能になったこと」が大きいと小川先生は指摘します。

それに伴い、チャットやレポートを通じたアウトプットが飛躍的に増加し、今ではどの教科でも1人1アウトプットが当たり前になっているといいます。

アウトプットのための”情報”の時間を創設

アウトプットの量・質を高めるためには、情報活用能力の育成が欠かせないとの考えから、課題の設定・情報収集・整理分析といった流れを教える機会を、「情報」の時間の中で創設したことも紹介されました。

情報の時間でアウトプットに必要なスキルをまとめて教えることで、どの教科でも質の高いアウトプットを生み出し、相手に伝えられるようになったと小川先生は語ります。

一方で教職員の間でも、クラウド環境下での経験に乏しい教師も多い中で、先生方にも授業を経験してもらったり、チャットで大量の情報を共有したりしながら、教師・生徒が一体となって実践を高めているとのことです。

質疑応答

続いて中学校でのICT活用や教育課程を作るポイントについて、事前に多く寄せられた質問に対して小川先生が回答しました。

中学校でのICT活用を進める上でのポイントは?

こちらの質問に対して小川先生は、中学校では美術の時間や音楽の時間など、さまざまな教科でICT活用の余地があると語ります。

美術の時間では、塗り方を一人ひとりに対して手作業で教えるのではなく、クラウド上に教師が塗り方を解説した動画を置いておき、それをいつでも視聴できる環境を整えたことで、生徒たちも自分を表現しやすくなったという事例があるとのことです。

「このように校内を見渡してみると、ICTを活用できる場面が非常に多いので、一度実践してみると教師側が毎回指示するのがもったいなく感じるようになる」と語ります。

重要なのは、最初から大きなことをやろうとするのではなく、今までの活動を少しずつ子どもたちに渡していくことであると、ファシリテーターの水谷氏が総括しました。

情報活用力の育成で小中一貫教育課程を作る上で工夫・苦労したことは?

工夫した点として、「実践したことは動画として記録に残し、後から他の先生方も実践しやすいようにするなどの工夫を施しています」と小川先生が回答しました。

ちなみに情報活用力の育成を子どもたちに教えるという点に関しては、小川先生はそれほど苦労はせず、カリキュラムづくりや情報をまとめる作業は大変だったと語っています。

クラウド環境の活用が日常になる仕掛けとは?

こちらの質問に対して小川先生は、「教師が使っていくことに尽きる」と断言。

教職員が自分たちでクラウド環境を活用し、「これは便利だ!」と実感できるようになれば、授業でも校務でも自然と活用するようになると語ります。

特に小川先生の高森台中学校の教職員が多用しているのは「Google Chat」で、授業の中で子どもたちができたことや良い変化などはどんどん発信しているといいます。

こうした情報が「私の教科でもできるかも?」という意識につながり、学校全体で学びが進んでいく仕組みが出来上がっているとのことです。

学び方から残し方まで児童が選択する小学校での実践事例

次に登壇したのは、春日井市立藤山台小学校の教諭、久川 慶貴先生です。

久川先生は小学校でのクラウド活用について、授業以外の画面と授業での場面の2つに分け、それぞれの実践事例を紹介してくださいました。

授業内外でのGoogle Classroomの活用方法とは

久川先生はまず、Google Classroomは各教科ごとに用意し、「授業が始まった=その教科のクラスルームに入れば良い」という仕組みを構築しているといいます。

子どもたちのクラウド活用パターンは幅広く、チャット上で学習計画を残して友だちと共有する子もいれば、Googleカレンダーで小テストや宿題の予定を管理する子、自宅でGoogle Meetを使って友だちとつながって一緒宿題をする子もいるのだそうです。

授業の中での事例として、国語の提案文を作る授業では、Google Jamboardを使ってまずは文章の構造を作った上で、1回目はみんなで作成、2回目は個人で作成するという流れで指導していると述べました。

このような指導を通じて、「ゆくゆくは一人でできるようになるために、他者の活動を見てもいいんだ」と子どもたちに理解してもらうことを大切にしているといいます。

クラウド環境に支えられた教室での教師の役割

久川先生の授業では、Google Classroomに大きく支えられていることを強調しました。

これまで黒板に書いていた「めあて」「なかみ」「ながれ」などの情報をGoogle Classroomに集約し、これまでの学びはポートフォリオとして記録に残すことで、いつでも閲覧できるようにしていると語ります。

上手な学び方をしている子のやり方を他の児童が見られるようになっているため、学び方の広がりも早いのだそうです。

実際の授業では、Google Classroomにて「なぜ・何を・どのように学ぶのか」を示して説明を行いますが、その残し方は手書きのノートでもチャットでも、子どもたちが自由に決めているといいます。

こうして子どもたち一人ひとりが学び方を選択する授業の中で、教師の役割は「教室を俯瞰して見る」ことであると久川先生は語ります。

授業中教室を歩いている時にも、「どう学んでいるかな?誰と学んでいるかな?」を慎重に観察し、一人ひとりの学びを応援しているのだそうです。

「クラウド環境を生かして子どもたちの学び方が広がることを支援し、自走する子どもたちに声掛けしていくのが重要です」と、久川先生は締め括りました。

質疑応答

最後に、小学校での授業観の転換や学校全体での取り組みに関して、事前に多く寄せられた質問について久川先生および小川先生が回答しました。

児童生徒が主体となる授業観への転換のコツとは?

この質問に対し久川先生は、「子どもたちに学び方が身についているか?という視点を持つことが重要だ」といいます。

教師がいなければ学べない状況ではなく、「どのように学べばゴールに辿り着くのか」「どのように情報を集めれば問題解決につながるのか」を考え、学習過程を整理して教えてあげるのが大切だと語りました。

一斉授業から複線型の授業への転換は、何から始めたら良いのか?

こちらの質問は前出の質問と地続きであると久川先生はいいます。

「子どもたちに”学ぶ流れ”を教えると、子どもたちの間で学習のペースにズレが生まれ、情報収集の手段にもズレが生じてきます。そこで『今は何がズレてきたんだろう?』と気づく意識を持つことにより、自然と複線型の授業へとシフトしていきます」と述べました。

一方で小川先生も、「最初は教室がぐちゃぐちゃになってしまわないか心配する方も多いでしょう」とした上で、「大事なのは教室の景色ではなく、一人ひとりに納得のいく考え方を持たせられるかどうかに着目することだと思います」と述べ、最初から高みを目指すのではなく小さく始めることの重要性を強調しました。

個別最適な学びと協働的な学びの充実に向けた、学校体制としての取り組みは?

こちらの質問に対して、まず学年主任を務める久川先生は、「管理職の先生に授業の変化を咎められることがなかった、むしろ一緒に協力してもらいながら進められたことが、ありがたかった」と語ります。

授業のポートフォリオを共有したり、Google Classroomに入ってもらったりすることで、お互いの授業をチェックすることが効果的だったといいます。

一方で教頭を務める小川先生は、「先生方の授業の変化を止めることなく、チャレンジをサポートすることが大事です」と回答しました。

目標や計画を綿密に決めることはせず、まず実践してみて良かった取り組みは続け、そうでない場合は止めるという”アジャイル的”な自由な実践を、学校全体としてサポートしてきたのだそうです。

教職員の意識改革はまずどこから取り組むと良いのか?

「まず必要なクラウド機能を使ってもらうことが重要だと思います」と久川先生が回答しました。

欠席があればシートに記入して共有したり、学年ごとのチャットを作って連絡事項を全員に周知したりと、「クラウドを活用すればこんなに便利なんだ!」と実感してもらうことが大切なのだそうです。

まずは教職員が活用し、時間短縮や確実な情報共有といったメリットを実感するところから始めると良いと語りました。

管理職のリードがあるかどうかが重要だと思うか?

こちらの問いに関して小川先生は、「うまくいった最大の要因は、管理職の先生だと思います」と断言しました。

小川先生は土日の学習会などを通じて「こんな取り組みを始めてみたい!」ということを管理職に伝え続けてきたそうですが、これまで1度も却下されたことはなかったといいます。

むしろアドバイスをもらえたことも少なくなく、より経験豊富な管理職の先生が後押ししてくれたことにより、ICT活用を極めて進めやすくなったと語りました。