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指定校の実践事例から学ぼう!リーディングDXスクール事業 公開学習会 リポート Vol.8

2024.7.30

2024年6月20日に実施された“リーディングDXスクール事業”公開学習会では、愛知県知多市、北海道旭川市、沖縄県沖縄市、兵庫県西脇市の取組実践が紹介されました。
本学習会では各自治体が行っている特徴的な取り組みが紹介され、多くのDX戦略やGIGA端末の実践事例を共有する場となりました。
本記事では公開学習会の発表内容と、質疑応答の様子をリポートします。

登壇者

愛知県知多市
知多市教育委員会 学校教育課 指導主事 柘植裕之 氏

北海道旭川市
旭川市教育委員会 学校教育部 教育指導課 課長補佐 小山和歌子 氏

沖縄県沖縄市
沖縄市立諸見小学校 校長 堤正代 氏

兵庫県西脇市
西脇市教育委員会 教育創造部 指導主事 大橋正資 氏
西脇市立楠丘小学校 教諭 藤原貴之 氏

司会・進行:
学校DX戦略アドバイザー
春日井市教育委員会 教育研究所 教育DX推進専門官 水谷年孝 氏

リーディングDXスクールの概要と本学習会の趣旨説明

最初に司会・進行を務める、春日井市教育委員会 教育研究所 教育DX推進専門官 水谷年孝氏から2年目を迎えるリーディングDXスクール事業の概要および本学習会の趣旨説明がありました。

水谷氏は、GIGA端末の標準仕様やクラウド環境を活用した子どもの情報活用能力の育成および校務DXの実践に加え、リーディングDX事業を全国に広めるための核となる学校を作る重要性を改めて強調します。

また本学習会では、昨年度からリーディングDXスクール指定校に定められた、今年2年目を迎える4つの自治体が事例を紹介することを説明しました。

各自治体の特徴が重要な参考事例となることを述べ、各自治体の事例発表に移っていきます。

愛知県知多市の取り組み

まず最初に発表したのは知多市教育委員会 学校教育課 指導主事 柘植裕之氏です。柘植氏は校務でのDXを始め、学校サイトの活用についても発表しました。

校務におけるチャット活用

柘植氏はまず、校務におけるチャット活用について解説しました。

「職員全員チャット」を用意し、欠席連絡や遅刻早退の対応、保健室来室情報などについて共有できる体制を形成したことを説明しました。

これまでメモやインターホンで対応していた業務がチャットに変わったおかげで、作業の煩わしさが緩和され、よりスムーズな情報共有ができるようになったと語ります。

教員に便利さが伝わったことでチャットを活用する場面は増加し、朝の打ち合わせや学年行事の資料の内容もチャットでやり取りするようになったそうです。

さらに校外学習の際には離れた場所にいる教員同士の連携に利用でき、校外学習の状況を随時報告できるようになり、高い効果を発揮したということです。

「場所を問わず情報共有できる。これに大きなメリットを感じました」と、教員からも好評であることを強調しました。

学校サイトの活用

続いて柘植氏は、学校サイトの活用について言及。

「専用の学校サイトを参照することで、これまで職員室の黒板でしか参照できなかった情報を、場所を問わず参照できるようになった」と説明しました。

保護者連絡ツールや校務支援ソフトといった、教員の使用頻度が高いツールのリンクをまとめておくことで、教員が「とりあえずこれを参照すればわかる」状態を作ることに成功。これにより、学校サイトの活用が拡大したと語ります。

なお、学校行事でサイトを使用する際には子どもにサイトの編集を任せることもあり、これらの取り組みが子どもの当事者意識や自主性に繋がっているとも補足しました。

校務DXによって生じた変化

柘植氏は校務DXについて、「校務DXに取り組んできて、クラウド環境を活用することのメリットを多く感じている」と発言。教員もその良さに気づくことで「授業でも使えそうだ」という気持ちが生じていったと語ります。

そして最後に柘植氏は「今年度は昨年度の実践内容をベースに他校へのDX化推進を広げる活動に力を入れる」と言及。実践における学びの機会をより増やしていくための取り組みを増やしていきたいと展望を述べ、発表を締めくくりました。

質疑応答

続いて、水谷氏が柘植氏に質問をする形式で、愛知県知多市の取り組みに対する質疑応答の時間が設けられました。

チャットやウェブでの情報共有が進んだ理由は?

柘植氏は、基準がクリアされているデバイスであれば、個人のデバイスでも学校アカウントを使えるようにしていることが、情報共有が進んだ要因だと回答しました。

基準となる学校セキュリティポリシーを知多市で作成し、マルウェア対策、他と共用しない個人用のデバイスであること、校長の許可といった要件を設け、セキュリティ対策を行っていることを説明。

そのうえで、学外での端末利用を可能にしたことを、情報共有が進んだ最大の理由としました。

今年度、特に取り組みたいことは?

柘植氏は「授業での活用を広げていくことに、今年は力を入れたいと思っています」と回答。

子どもも教員もクラウドの良さを感じられる授業での活用例を紹介し、「他校にまねしてみたいと思ってもらえるような活用をしていきたい」と語り、発表を締めくくりました。

北海道旭川市の取り組み

続いて発表を行ったのは旭川市教育委員会 学校教育部 教育指導課 課長補佐 小山和歌子氏です。授業内での取り組みについて、北海道旭川市の事例を元に解説しました。

授業における活用実践

まず小山氏は、市の指定校が実践している取り組みを集めたホームページを紹介。

授業実践や校務・授業で使えるテンプレート等を掲載し、市内の学校がDXに取り組みやすいよう情報発信を行っていることを説明しました。

小山氏は実際にホームページに掲載されている事例を用いて、ジャムボード活用による相互参照、スプレッドシートの活用による授業の進行度の共有といった取り組み内容を発表。

クラウド環境を利用できるツールの使用が、チャットを使った子ども同士の議論の活発化や欠席した生徒への情報共有に繋がっていることを強調しました。

校務における活用実践

続いて小山氏は校務における活用実践の紹介に移ります。

その一例として、進路情報をまとめたサイトを作成していることを紹介。これまで紙で高校別に配布していた文書をGoogle サイトにまとめ、学校、生徒、保護者が同じ情報を共有できる環境を整えたことを説明しました。

小山氏は「生徒からの希望集約も簡単になり、進路業務を担当する教員の大幅な業務時間の短縮につながっています」と語り、今後さらに活用を広げていきたいとの意向を示しました。

小山氏は校務DXの成果として、教員の業務時間の短縮、紙の使用量の大幅削減ができたことを強調。

クラウドの利用によって市内の競技場の利用調整、ALTの日程調整等、学外のALTや教育委員会との連携も容易になり、各所から好評を集めていると説明しました。

研修会について

続いて小山氏は、市内の小中学校へのリーディングDX事業普及に向けた研修に言及。昨年の11月に市内の全小中学校が参加する実践報告会を開催し、DXを実践する学校の増加につながったことを強調しました。

また、リーディングDX事業が2年目を迎えたことを受け、これまで市教委が主導していた研修会からDX指定校4校が主導する研修会にシフトしていることを説明。各学校が自主的に実践例をより多く発信できるのではないか、という見通しを発表しました。

今後もホームページを使ったリーディングDX事業の情報発信を続けていくことを強調し、「うちの学校でもできるかもしれないな、取り入れてみたいな、試してみたいなと感じていただけるように、旭川の取り組みを多く発信していきたいと思います」と所信を表明し、発表を締めくくりました。

質疑応答

続いて、北海道旭川市の取り組みに対する質疑応答の時間が設けられました。

市内の学校にDXを広めるために工夫したことは?

小山氏は「広めることは本当に地道な活動ですね」と前置きしたうえで、学校を訪問して直接情報共有することが重要だと回答。

市教委として各学校を訪問する際に、管理職の教員に直接、他の学校の取り組みや学校訪問で聞いた内容を共有していることを紹介しました。

また、取り組みや事例を参照できるよう、市で作成したホームページのQRコードを共有する取り組みも行っているそうです。

一押しの実践内容があれば教えてください

小山氏は単年度だけでなく、中学校3年間を通じて使用できるシートの活用を進めていることを説明。

体力シートや進路情報といった、複数年にわたって管理すべきデータをまとめて整理できるシートを作成したと語ります。

各学校にシートのリンクを配布したところ好評を博しており、活用が広がっていることを強調しました。

沖縄県沖縄市の取り組み

続いては、沖縄市立諸見小学校 校長 堤正代氏によって、沖縄県沖縄市の「リーディングDX事業を進めるうえでの背景とその葛藤」「GIGA端末導入の流れと成果」などが紹介されました。

リーディングDX推進で意識したポイント

堤氏は時系列とグラフを用いて、リーディングDX事業1年目の取り組みおよび事業を進めるうえで対峙した葛藤を振り返ります。

開始から数か月は当惑する時期があったものの、リーディングDX先進校である春日井の小中学校を視察してから取り組みに火が付いたと語ります。

「まさに百聞は一見にしかずで、これまで行ってきた理論研修の内容がストンと腑に落ちた瞬間でした」と、現場の実践を通じて学ぶ重要性を強調しました。

その後も順風満帆とは行かず、実践を重ねる中で悩みやつまずきも多かったと堤氏は語ります。

しかし、学校DXアドバイザーの佐藤准教授から「まずやってみて、ダメなら次に行く」「失敗上等でトライ&エラーをくり返す」といったアドバイスを受け、改善を続けていったと語ります。

リーディングDX事業が2年目を迎えた現在、昨年1年間ICTを活用した子どもたちが、新任教員の行う授業を引っ張ってくれていると説明。子どもと教員の関係も変わり、新たな波が到来していることを強調しました。

授業へのGIGA端末導入の流れと成果

続いて堤氏は、授業へのGIGA端末導入の流れと成果に言及。

「授業観の転換はベテラン教師ほど、今までの実績や成功体験が邪魔をします」と授業観の転換の難しさを述べたうえで、GIGA端末の必要性を複数回の理論研修によって伝えていったことを説明しました。

校務で端末を使用する際には、子どもが使用するアプリと同じアプリを使用することで、教員自身が操作に慣れることを重視。

わからないことは積極的にできる人に教えてもらい、実践の中で情報共有していくことで、手ごたえを感じていったと語ります。

また堤氏は、GIGA端末を使用した、子どもが主体となる学びについても言及します。

GIGA端末の使用状況は学年ごとに異なり、1年生では従来通りの一斉授業、そこから徐々に1人1台端末を活用した複線型の授業にシフトしていくことを説明しました。

教員の立ち位置を「児童のサポートを行い、学びを深めるファシリテーターの役割」と表現し、子どもたちの主体性を重視する学びの環境を作っていることを強調しました。

リーディングDX事業2年目に向けた取り組み

堤氏は最後に、リーディングDX事業1年目の成果と、2年目に向けた取り組みに言及。

2年目の課題について「授業においては質の向上を図ること。校務においては生成AIの活用でさらなる業務改善につなげることです」と語ります。

そして「本校が取り組んでいる好事例を市内外へ広め、先進校のような存在になれたら」と今後のさらなるDX推進への思いを述べました。

校内では昨年度もリーディングDX事業に携わった2年目の教員が指導者となって、校内研修も始まっていることを説明し、発表を締めくくりました。

質疑応答

続いて、沖縄県沖縄市の取り組みに対する質疑応答の時間が設けられました。

管理職の先生や市教委が取り組んできたことは?

堤氏は諸見小学校の授業力の向上が、管理職や市教委のサポートあってこその成果であることを強調。

管理職による学校経営の調整や雰囲気づくり、市・県・国による親身な指導によってサポートをしてもらえたことで、授業改善につながったと語ります。

教員は授業力向上、管理職は学校経営、市・県・国は学校支援、という与えられた役割をそれぞれがしっかり果たしたことが、成果につながったことを強調しました。

一押しの実践内容があれば教えてください

堤氏は重視すべき実践内容として、先進校の視察、相互参照、子どもの自走の3点を挙げました。

堤氏は先進校視察について「先進校を視察することでパラダイムシフトが起こりました」と実際に現場を見る重要性を語ります。

相互参照については、クラウドを活用して隣のクラスルームを参照する環境があることを一例に、クラウド環境を利用した相互参照の有用性を強調しました。

子どもの自走については、GIGA端末の使用に慣れた子どもたちが、リーディングDX事業1年目の教員を引っ張っているという事例を改めて紹介。

教員が引っ張っていく従来の学習観から、子どもが自発的に行動し、授業を主導する学習観へと変わっていることを解説しました。

兵庫県西脇市の取り組み

兵庫県西脇市の取り組みは、西脇市教育委員会 教育創造部 指導主事 大橋正資氏、西脇市立楠丘小学校 教諭 藤原貴之氏が紹介。

西脇市全体の課題として、教員の授業観を拡張していくことを挙げ、大橋氏が市教委の取り組みを、藤原氏が学校の取り組みをそれぞれ報告しました。

市教委による研修会の実施と学校との連携

大橋氏は市教委の取り組みとして、実際の授業に即した研修会を紹介。子どもが行う授業と同じ環境で研修を行い、教員自身の体験を重視していることを強調しました。

加えて大橋氏は「研修の課題や学習過程はクラウド上で共有し、研修中にチャットも活用しています」と説明。教員が実際に他者参照しながら学び、アウトプットする体験をしていることを強調しました。

関連して大橋氏は、学校における日々の実践や研修について学校や先生方に任せきりにならないよう、市教委による伴走支援を大切にしていることについても言及。市教委から学校へのアプローチを繰り返すうちに、学校側からの相談も増えてきたと語りました。

学校におけるDX事例

続いて藤原氏は、学校における取り組みについての紹介も行います。

藤原氏は最初に行った取り組みについて「現時点での課題と目指す子ども像や授業の共有を行いました」と説明。

その結果として「子どもが自走する授業」を理想の授業として設定し、この目標に向かって取り組みを続けてきたことを強調しました。

校務における取り組みについては、「端末とクラウド活用はできるところからやってみようと取り組みを進めてきました」と説明しました。

当初ホワイトボードを使って行っていた情報共有や研修アンケートを、クラウド環境を利用する形式に変更。校務で徐々に端末とクラウド活用に慣れ、授業にも徐々に取り入れて、修正と改善を繰り返していると語ります。

また校務や授業における取り組みはチャットを使って中学校区の教員と共有していることを説明。「日々の発信により研修の日常化が進んでいき、授業について話し合う時間が増えました」と語ります。

これらのクラウド活用によって教員のクラウド活用に対する意識が高まり、その便利さを見た子どもが自ら学び取る、授業観の拡張に繋がっていることを再度強調しました。

リーディングDX事業2年目における取り組み

最後に藤原氏はリーディングDX事業2年目における取り組みに言及。

社会科の授業で使用したシートをもとに、 児童の見方・考え方の変化を視覚的に確認しやすい環境を構築していることを解説しました。

現時点では学習規律や学習環境の構築を重要視していることを述べ、「子どもたちが自由に安心して学習形態を選択できるような学級経営を進め、子どもたちが 自走する力を高めていきたい」と意向を示し、発表を締めくくりました。

質疑応答

続いて、兵庫県西脇市の取り組みに対する質疑応答の時間が設けられました。

市内の学校が一体となってDXを進めるための工夫は?

大橋氏はリーディングDX事業2年目の研究計画を参照しつつ、積極的に研修や研究会を開催していることを紹介。

年度始めには昨年度の指定校の教員が講師を務めるキックオフ研修を実施し、昨年行われた実践事例の共有・引き継ぎを行ったことを説明しました。

他にも校内授業研究や研修を複数回実施し、昨年度の指定校教員や学校DXアドバイザーを講師として招き、子ども主体の授業と子どもたちの実態について理解を深めたと語ります。

さらに、実践報告会を複数回実施し、各校の取り組みを報告。文部科学省GIGA StuDX 推進チームによる講評を受ける報告会も予定しており、情報共有・学びの場を多く設けていることを強調しました。

今後の動きとしては計6回の校内授業研究会を予定しており、西脇市の教員が全員参加するよう協力依頼を行い、市で一体となった研究を展開する計画をしていることを述べました。

本学習会のまとめ

最後に「4つの自治体から学んだこと」と題し、水谷氏による本学習会のまとめが行われました。

水谷氏はまず、子どもたちがどんな学びをすればよいか、目指すべき学びの姿を共有することの大切さを強調。

加えて、教員がクラウド環境を積極的に活用し、その良さを自ら体験する重要性にも言及しました。教員自身がトライ&エラーを繰り返し、ICTの便利さを理解することがGIGA環境の活用の幅を広げることに必要である、とも説明します。「授業、校務、研修も一体になって考えていくことがすごく重要だなということです」 と述べ、研究授業や模擬授業を通じた学びも大切である、と補足。

また「校務DXで何をすればよいか分からない」という悩みに対しては、文部科学省が発表している「校務DX化チェックリスト」や、リーディングDXのウェブサイトで公開されている昨年度の事例を参照するといった方法を紹介。必要に応じて学校DX戦略アドバイザーによる支援や指導を仰ぐことをおすすめし、本学習会を締めくくりました。