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リーディングDXスクール事業 生成AIパイロット校 成果報告会

2024.4.23

2024年2月20日、「リーディングDXスクール事業 生成AIパイロット校 成果報告会」が開催されました。本記事では、下記の報告会・講評の様子や概略についてお伝えします。

◆趣旨説明
 文部科学省初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトチームリーダー 武藤 久慶 氏

◆基調講演
 「生成AIとの向き合い方 そして今後の行方」
 デジタルハリウッド大学 教授・学長補佐 佐藤 昌宏 氏

◆パネルディスカッション
 司会:
 リーディングDXスクール事業 事業推進委員長
 東北大学大学院情報科学研究科 教授
 東京学芸大学大学院教育学研究科 教授・学長特別補佐
 堀田 龍也 氏

 登壇校:
 ・つくば市立学園の森義務教育学校
 ・茨城県立竜ヶ崎第一高等学校・附属中学校
 ・千代田区立九段中等教育学校
 ・春日井市立藤山台中学校

◆生成AIパイロット校によるポスター展示

◆全体講評
 東京学芸大学教育学部 教授 高橋 純 氏
 信州大学教育学部 准教授 佐藤 和紀 氏

趣旨説明:初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドラインについて

登壇者

文部科学省 初等中等教育局学校
デジタル化プロジェクトチームリーダー 武藤久慶 氏

文部科学省初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトチームリーダー 武藤久慶氏が、本成果報告会の趣旨について説明しました。

学習指導要領においての生成AIの位置付け

まず武藤氏は、学習指導要領では学習の基盤となる資質・能力として「情報活用能力」が位置づけられていることに触れ、情報あるいは情報技術を適切に活用して、自分たちの考えを形作っていく、あるいは問題を発見したり、解決したりしていくという資質・能力を子供たちに身に付けさせるという基本を押さえることの重要性を指摘しました。ここに立ち戻れば、新たな情報技術である生成AIについては、どのような仕組みで動いているのかという理解や、生成AIを使いこなす力を意識的に育てていく必要があることを基本的な考え方として説明しました。

また、生成AIの性質やメリット・デメリット、AIには自我や人格がないこと、生成AIに全てを委ねるのではなく自己の判断や考えが重要であることを十分に理解させることの重要性についても触れています。個別の学習活動での活用の適否については、学習指導要領に示す資質・能力の育成を阻害しないか、教育活動の目的を達成する観点で効果的か否かで判断すべきである、といった基本的な考え方を示し、こうした判断を適切に行うためには、教師側もAIへの理解・リテラシーが必要であることを指摘しました。

生成AIの教育利用の方向性・3つのレイヤーについて

続けて武藤氏は生成AIの教育利用の方向性について、基本的な考え方・3つのレイヤーとして以下の3点を示します。

1. 現時点では活用が有効な場面を検証しつつ、限定的な利用から始めることが適切であること
2. 全ての学校で、情報の真偽を確かめること(いわゆるファクトチェック)の習慣付けも含めた情報活用能力を育む教育活動を一層充実させること
3. 教員研修や校務での適切な活用に向けた取組を推進すること

特に3.の校務での活用については、教師側にとって大きなメリットがあるにも関わらず、令和5年12月時点の校務DX化チェックリストの自己点検結果によれば約8割弱の学校では生成AIを校務で全く活用していないというデータも紹介しました。

最後に武藤氏は、「生成AIは、端末・OS以上に極めて変化が激しいものであるが、変化が激しいものを学校に取り入れ、教師たちが常に知識をアップデートしながら教育活動に携わっていくということは、変化の激しい時代において子供たちの教育を行う上で極めて重要なことではないかと思います。変化の激しいものに正しく向き合うこと、正しく恐れて賢く使うことが重要で、こうした取組を通じて日本の教育を更に前に進めていきたい。」とまとめました。

基調講演:生成AIとの向き合い方 そして今後の行方

登壇者

デジタルハリウッド大学 教授・学長補佐 佐藤昌宏 氏

続いて、デジタルハリウッド大学教授・学長補佐 佐藤昌宏氏から、「生成AIとの向き合い方 そして今後の行方」の講演が行われました。

生成AIの活用ステージについて

佐藤氏は生成AIの活用ステージについて、文部科学省作成の暫定的なガイドラインにおいて示された①〜④の基本的なステージを紹介しながら、その先のステージに関する考えを紹介しました。

ステージ⑤は生成AIを日常的に使っていく上で、「このようなこともできるのでは?」「このようなこともできてしまうのか」という未来への予測が立つ段階、更にその次のステージ⑥は、自身及び社会の課題解決、新しい表現方法として活用できる段階として、この段階までを目指すべきであることを示しました。また、この段階に到達するためには、「使いながら学ぶ」ことが重要であることを指摘しています。

現在のテクノロジーの急速な発展

続けて佐藤氏は、生成AIだけでなく、Web3を始め、XRなど、先端技術の汎用化が起きていることを指摘します。つまり、これまでは特定の人にしか使えなかったものが、誰もが使えるようになっている現在の状況や、今後も様々なテクノロジーの進化は止まらない点を指摘しました。

また、「GPTs」「AGI化」「マルチモーダル」などAIを活用した様々な技術についても紹介し、このようなAIの急速な発展性から、今後はAIが各テクノロジーの中に内包されるのではないかという見方を示しました。

withテック時代における必要な考え方と力

続いて佐藤氏は、テクノロジーの進化が激しい時代には、プロトピア的進化(昨日より今日の方が少しだけ良い状態を作る)が重要であり、プロトピア的進化は「使うこと、そして学び続けること」でしか得られないことを指摘し、だからこそ以下の2つが必要であると指摘します。

1. 技術の可能性と限界を知ること
2. AIを制御する力

1. 技術の可能性と限界を知ること

技術の可能性と限界を知ることについては「仕組みと変化の歴史(スピード)を知る・把握する」ことが大切であると強調します。

そして、現場で起きている事象と照らし合わせながらも、試行錯誤をしながら使うという、ラボ的な使い方が良いと語ります。

2. AIを制御する力

AIを制御するための力として、教育が一層必要になると指摘します。

現在においても、教育が必要な理由に関する具体例として、漢字予測変換時には、基礎学力が培われているからこそ、正しい漢字を選び取ることができること、英語を自動翻訳していたとしても、基礎学力があるからこそ自動翻訳の違和感に気付けるようになることを紹介しました。

このように、テクノロジーが出した答えに対して正しく対応できなければ、テクノロジーを制御できず、逆にコントロールされてしまうという状況になりかねないということを佐藤氏は語りました。

さらに、技術の進展が進む将来においてさらに教育が必要とされる理由として、リベラルアーツに関する教育が必要である点を指摘します。技術には善も悪も白も黒もなく、決めるのは人間であり、知識や道徳、思考力をもとに自身の価値観を決めることができるのであるから、リベラルアーツやSTEAM教育の必要性を強調します。最後に佐藤氏は自身の背景から「イノベーションはイノベーターからしか起こらない」という言葉を紹介しながら、現場実践で教育を変えていく、そして管理職など立場が上の人間が取組にストップをかけることなく、その様子を見守っていく必要があると指摘し、本講演を締め括りました。

パネルディスカッション

続いて生成AIパイロット校4校による、パネルディスカッションが開催されました。

登壇者

リーディングDXスクール事業 事業推進委員長
東北大学大学院 情報科学研究科教授
東京学芸大学大学院 教育学研究科教授・学長特別補佐
堀田龍也 氏

つくば市立学園の森義務教育学校 教諭 左近史稔 氏

茨城県竜ヶ崎第一高等学校・附属中学校教頭 宮内和広 氏

千代田区立九段中等教育学校 主幹教論 須藤祥代 氏

愛知県春日井市立藤山台中学校 校長 西崎慎也 氏

つくば市立学園の森義務教育学校の成果報告

最初に登壇したのはつくば市立学園の森義務教育学校・左近史稔先生です。

同校では、校内に生成AIプロジェクトチームを立ち上げ、教師向け研修を行った上で、5~9年生の児童生徒による生成AIを授業で活用する実践を行っています。様々な取組の中でも、中学校英語における生成AIを活用した授業の内容を紹介しました。

7年生(中学校1年)の授業では、ChatGPT3.5を搭載した人型ロボットのPepperを使用し、生成AIを使って英語の授業におけるスモールトークを実施しました。

英語でのやりとりを苦手に感じる生徒や対面での会話が苦手な生徒など、個々のレベルに応じた個別最適な学びを提供することで、「もっと話したい」などの生徒の主体性を高めることに成功したと語ります。8年生(中学校2年)の授業においても、生徒がプロンプトを設定し、自分の興味のあるテーマで、自分の設定したレベルで生成AIと英語で会話する授業実践も報告しました。

茨城県竜ヶ崎第一高等学校の成果報告

続いて発表したのは茨城県竜ヶ崎第一高等学校教頭・宮内和広先生です。

同校では「生成AIを使って、主体的で対話的な深い探究型授業を開発する」を目的に、国社数理英情の主要6教科において、コンテンツの生成を授業案に取り組む研究授業を実施しました。

同校では、生成AIを「誤りを一部含みつつも、多様な声に裏打ちされた一般的な応答を提示してくれる」教育資源と想定した実践を進め、生徒が生成AIと「一緒に学ぶ」という文脈の中で、生徒は学びに心を開き、「主体的で対話的な学び」に向かうということを認識したと言います。そして生成AIを使った授業に「大変満足している」「満足している」との生徒からのアンケート回答が95%を超える結果となっていることを示しました。

千代田区立九段中等教育学校の成果報告

続いて千代田区立九段中等教育学校主幹教論・須藤祥代先生から実践報告がありました。

同校では、生成AIを導入する際、ガイダンスを組んだ上で授業を実施。実際に仕組みや特徴を体験的に学び、そこからより良く活用していくためにはどうすれば良いのか、グループでシェアをしていく形で学習を実施しました。

同校では、架空の中等教育学校のウェブサイトを制作するPBL型の授業で、テキスト生成AIや画像生成AIを活用し、生成AIについて体験的に学ぶ授業に関する実施報告がありました。

このような実践授業を通じて、90%もの生徒が「生成AIを使った学習は効果的である」と回答したとのことです。年間の「情報Ⅰ」のカリキュラムの中で、生成AIも活用し、段階的に情報活用能力を育成することを意識した実践の報告となりました。

春日井市立藤山台中学校の成果報告

最後に春日井市立藤山台中学校校長・西崎慎也先生から「校務での生成AIの活用」について発表がありました。生成AIに関わらずICT導入の時代から、教師がまず使ってみる、どのようなものかをよく知る、負担軽減につなげる、子供たちがどのように活用できるかを校務で活用しながら検討する、といった市の基本的な考え方があることがまず紹介され、生成AIの校務での具体的な活用例として、主な4点を紹介しました。

校務利用のうち「集約・分析」については、生徒の感想・アンケートの集約に役立てた例を紹介しました。SST(ソーシャルスキルトレーニング)での生徒たちの感想をChatGPTにまとめてもらい、カテゴリ分けまでを実践したところ、簡単で活用しやすいことから、現在でも多くの教員が活用していると言います。

その他の事例についても触れつつ、最後に西崎先生は、まずは楽しみながら校務活用してみることが重要であると強調し、事例紹介が締め括られました。

登壇者によるパネルディスカッション

各パイロット校からの発表に続いて、登壇者4人によるパネルディスカッションが行われました。

本パネルディスカッションの最後には今回の登壇者4人から今後の展望が語られ、コーディネーターの堀田龍也氏からは、生成AIパイロット校のそれぞれが前向きに取り組んだ結果、今後も継続的に取組を進めていくであろうこと、文部科学省としても情報活用能力の育成や生成AIの利用を推進する方針であることが伺えることなど、今後の方向性について総括する発言があり、パネルディスカッションが締め括られました。

ポスター展示

パネルディスカッション終了後、全体講評が始まるまでの約1時間、生成AIパイロット校の取組を紹介するポスター展示が行われました。53の指定校・協力校が生成AIを活用した取組の成果を展示するとともに、実際に授業や校務で活用に携わった先生方が来場者に取組内容や成果、工夫した点などを説明し、質疑を行いました。

来場者は熱心に発表内容を見て回り、またパイロット校の先生方に積極的に質問するなど、大いに盛り上がりました。

信州大学教育学部准教授 佐藤和紀氏による全体講評

登壇者

信州大学教育学部 准教授 佐藤和紀 氏

本成果報告の全体講評では、信州大学教育学部准教授 佐藤和紀氏が登壇しました。

生成AIに関わらず、情報・メディアについて、何を知っておくべきか、学校教育において何を教えるべきかなど、情報モラルの観点から、本成果報告会におけるポスター展示に関して全体講評が話されました。

佐藤氏は冒頭において、「様々な教科単元において、小学校の頃からメディアを学習するということが行われているが、そこでメディアをトピック的に扱うのではなく、繰り返し考え、教え続けることが大切である。」と述べ、さらに「メディアが生活に与える影響は何か、メディアの特性な何かを踏まえ、子ども達が鍛えるべき能力は何かを考えるべきかと思います。」と語ります。

事例紹介

このような前提に立った上で、佐藤氏は大阪市立木津中学校や大阪市立天王寺中学校などのポスター展示内容について触れ、ファクトチェックの比較原則及び基礎基本、作られたフェイクニュースや記事が存在するということを知っていることが重要であるという点を指摘しました。

日常的なモラル指導に向けて

続いて、佐藤氏は日常的なモラル指導に向けてという観点から講評します。

生成AIの利用に関するガイドラインを引き合いに出し、2番目のステージである「使い方を学ぶ段階」における「ファクトチェックの方法」について、低学年のうちから習慣化することが大切であることを再度強調します。

また「たとえ生成AIで学習能力が身についたという結果が出たとしても、それ以前のファクトチェックができていなければ、生成AIを使うという意味自体を問う必要が出てくるのではないかと思います。」と述べました。

そしてこのような事態を防ぐためにも、日常から教科書でも引用を示すなど、ファクトチェックに対しての積み重ね・意識付けをすることが大切であることを強調しました。

最後に佐藤氏は来年度に期待することとして、情報の比較、ファクトチェック、身の回りの情報をきちんと読むことの習慣化を再度強調します。イベント的に取り扱うのではなく、日常的に実践することの大切さを強調し、本講評を締め括りました。

東京学芸大学教育学部 高橋純教授からの全体講評

登壇者

東京学芸大学教育学部 教授 高橋 純 氏

最後に東京学芸大学教育学部 高橋純教授より、全体講評が行われました。

高橋氏は、情報活用能力の3観点から、生成AIを使った授業での実践を深めていくにあたって紹介します。

児童生徒の情報活用能力の育成という観点から、「生成AI活用の実践力」をゴールとし、その前提として「生成AIの科学的な理解」が必要であること、そして常に「情報社会に参画する態度」を持ちながら正しく使っていくことが重要であることを指摘しました。

生成AIによる今後の学習活動について

続けて高橋氏は、生成AIによる今後の学習活動についても触れました。

事実的知識をネットワーク化する、つまり概念的知識に転換させていく際には、話し合う、伝える、意見交換をするという行為が必要となります。

高橋氏は、「概念的知識への転換を図る際、意見交換や議論の際に生成AIを用いることで、より効率的に学べるようになるのではないか。また学ぶ量が増加し、これまで以上に多くの概念を得られるのではないか。」と今後の学習活動における可能性を指摘しました。

活用イメージについて

最後に高橋氏は生成AIを用いた授業での活用イメージについても触れました。

高橋氏は、how to(ハウツー)、効果的な活用とは何かを考えるのではなく、理念や本質を再設計し、新しい授業を提案していくことがデジタルトランスフォーメーションの道のりであると指摘します。

そして、新しい授業観に基づく授業を実施するためには量や質を重要視するのではなく、少しずつでも新しいことを習慣化し、感覚を掴んでいくことが重要であると強調し、講評を締め括くりました。

堀田氏からの閉会挨拶

最後に、堀田氏から閉会の挨拶がありました。堀田氏は、学校の先生方が生成AIを学校教育にどう生かしていくのか試行錯誤している、その過程を文部科学省が応援している、こうした体制を、報道各社や学校関係者など多くの人が見守ってくれていることに触れて、成果報告会の意義やその注目度が高いことを指摘しました。今後も継続的に、時には失敗もしながら前に進んでいく必要があることにも触れました。

来年度もリーディングDXスクールの取組が続くこと、その中で生成AIについても取組を行うため、近く指定校の公募が始まることを紹介しつつ、成果報告会で多くの先生方が集まり、成果を共有できたことが最大の成果であると締め括りました。