GIGA×情報活用能力の育成 リーディングDXスクール事業 公開学習会 リポート Vol.11
2024年12月10日に実施された“リーディングDXスクール事業”公開学習会にて、「GIGA×情報活用能力の育成」と題し、情報活用能力やその育成方法についての講義が行われました。
本学習会では学校DX戦略アドバイザーの泰山氏が、GIGA端末を使った教育現場で重要とされる情報活用能力を深掘りし、その育成方法も解説。DX先進校の具体的な事例も交えた、実践的な学びの場となりました。
本記事では公開学習会の発表内容と、質疑応答の様子をリポートします。
講師
中京大学 教養教育研究院教授 学校DX戦略アドバイザー 泰山裕 氏
学習の基盤としての情報活用能力
まず泰山氏は、現行の学習指導要領において情報活用能力が学習の基盤となる資質・能力に位置づけられていることを説明。
「情報活用能力が具体的にどのようなものか、どのように育てていくのかを考えていく」と本講義の方向性を確認し、講義に入ります。
3つの学習の基盤
泰山氏は現行の学習指導要領において、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力の3つが学習の基盤として挙げられていることを紹介。
これまで学習の基礎として重要視されてきた言語能力と並ぶ資質として、情報活用能力が並べられていることを強調しました。
「1人1台端末環境が実現された今、情報活用能力は学習の基盤となる資質・能力としてさらに大きな意味を持つようになる」と、今後の展望を語ります。
従来の一斉授業における学びの基盤
続いて話題は学習の基盤となる資質・能力について、従来の授業における学びの基盤を例にして、説明していきます。
泰山氏は従来の一斉授業において、静かに話を聞く、指示通りに動けるといった資質が重要視されてきたことを説明しました。
それに対して現行の学習指導要領では、これからの学習の基盤として言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力を重視していると説明。
泰山氏はこの変化を「学習の在り方が変化していることを表している」と分析し、話題を展開していきます。
現行の授業における学びの基盤
泰山氏は現行の学習指導要領が目指す主体的・対話的で深い学びのベースとして「個別最適な学び」「協働的な学び」を一体的に充実させることが重要であると説明。
2015年と2050年で求められる能力の比較をもとに、その背景を深掘りしていきます。
2015年には与えられた仕事を丁寧にこなす能力が求められているのに対し、2050年は問題発見力、的確な予測など、コンピューターにどのような問題を解決させるのか、コンピューターが出した結果から何を予測し、どのような決定をしていくのか、といった能力が重要になると見解を述べました。
学びに向かう力をより深く知る
泰山氏は探究的な学習の過程の図を用いて、学びに向かう力をより詳細に分析。
「学習は課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現、というプロセスの繰り返しで進んでいく」と捉えると、より具体的にイメージできるのではないかと提案します。
「これまでの一斉授業では、これらの学習プロセスを教員が子どもの代わりにやってしまうことが多いのではないか」と問題提起を行ったうえで、個別最適で協働的な学びの必要性を強調。
「個別最適、協働的な学びの基盤として見ると、『情報活用能力』という言葉がどのような概念や要素を指すのかが、少しずつ見えてくるのではないかと思います」と説明し、情報活用能力のイメージをより明確にしました。
個別最適な学習の基盤としての情報活用能力
ここで泰山氏は、情報活用能力の具体的なイメージを共有すべく、実践事例の紹介や参加者とのコミュニケーションを実施します。
春日井市立高森台中学校の事例紹介
泰山氏が実践事例として紹介したのは、春日井市立高森台中学校で行われている社会科の授業。担当教員が授業の中で、端末をどのように活用しているか動画を紹介する形で解説しました。
動画内で教員は「各国の結びつきがどのように変わってきたのか」という問題を、子どもが自らJamboardを利用して考えを構造化していることを紹介。
クラウド環境のChatを使うことで、子どもの進捗把握、子ども同士の他者参照が容易になったと端末の利便性も強調しました。
子どもからは「これまではただ知った情報まとめるだけだったが、パソコンを使うようになって、自らまとめた情報をもとにディスカッションを行うことで情報が頭に入りやすくなった」という意見が挙げられており、端末を利用した個別最適、協働的な学びが実現している様子がうかがえます。
情報活用能力とは具体的にどのような力を指すのか
続いて泰山氏は、春日井市立高森台中学校の事例紹介を通じて、個別最適、協働的な学びを実現するための基盤となる資質・能力について、チャットで参加者から意見を募りました。
参加者からは、
・課題を的確に把握する
・教科書が「まとめ・表現」のモデルだと認識している
・タイピングをはじめとしたデジタルスキル
・情報モラル
・自己調整力
・保護者の理解
といった意見が寄せられ、この意見をもとに情報活用能力を「情報の収集、整理・分析、まとめ・表現、基本操作等、態度等、そのほか」と6つに分類し、より具体的な内容に迫ります。
泰山氏は6つの基盤のうち「情報の収集、整理・分析、まとめ・表現、基本操作等」と「情報モラルに関する態度」が情報活用能力にあたるという考えを展開。
「子どもの情報活用能力を伸ばすうえで、これらの要素を意識すると情報活用能力をイメージしやすいのではないか」と意見を述べました。
さらに泰山氏は「情報活用能力=コンピューターを使って何かをする能力のようなイメージを持たれる教員もいらっしゃる」と前置きし、現行の学習指導要領で示されている情報活用能力は「情報技術を適切かつ効果的に活用して問題を発見・解決することや、自分の考えを形成していくために必要な能力」だと改めて強調。
「コンピューターというイメージに囚われないほうが情報活用能力のイメージを捉えやすいのではないか」と提案を行いました。
情報活用におけるコンピューターの有効活用
一方で泰山氏は、情報活用におけるコンピューターの適切な利用の重要性も補足。
コンピューターの特徴・得意分野を把握し、「ここはコンピューターを使うべき、ここは自分で考えるべき」といった判断が情報活用において重要になることを強調しました。
また、コンピューターを使う上で、情報モラルも大事な基盤となると語る泰山氏。「情報モラルが身についていないと、人を傷つけてしまうことや、加害者になってしまうことがある」とコンピューターを使うことのリスクにも言及し、子どもの情報モラル向上の重要性を訴えました。
情報活用能力の育成で想定される学習内容
続いて泰山氏は、IE-Schoolで公開されている【情報活用能力の体系表列】を参照しつつ、情報活用能力の育成に求められる具体的な学習内容を説明。
さらに、情報活用能力を「情報機器の操作機能、問題解決や探究における情報活用、情報モラルやセキュリティ」の3つに分類し、より具体化していきます。
泰山氏は「子どもがどのようにこれらの能力を身に着けていくかがポイントになる」と、3つの学習内容の重要性を強調しました。
子どもの情報活用能力の現状
続いて話題は日本の子どもの情報活用能力の状況に展開。令和4年の1月、2月に実施された情報活用能力調査の結果を引用しつつ、現状の共有が行われました。
学年ごとに見る子どもの情報活用能力
泰山氏は、能力調査において子どもの情報活用能力が9段階に分割されていることを説明。
小学生から高校生における各レベルの割合と、その情報活用能力レベルの水準について説明しました。
加えて泰山氏は、レベルを3つの層に分けて説明します。レベル1から4はコンピューターを使って指示通りのことができる、レベル5から7の段階は目的に応じて操作できる、レベル8と9は情報の科学的な理解に基づいて問題を解決できる、という区分を示しました。
特に小学生の割合が多いレベル1から4に属する子どもの情報活用能力の育成が、これから求められる学びの基盤の形成として重要になることを強調し、話題はその育成方法に移っていきます。
子どもの情報活用能力をどのように育てるか
泰山氏は情報活用能力の育成方法を大きく2つに分類。「情報機器の操作技能、情報モラル・セキュリティ」については各教科の目標と分けて育成する必要があると説明します。
対して問題解決や探究における情報活用については、各教科の目標と関連付けて指導可能であると説明。
各教科で指導できる能力の例として、理科や体育における課題設定、社会科における情報収集、国語における情報の関係の理解、数学におけるデータ活用など、各教科と連携した情報活用能力育成の可能性を提示しました。
子どもの情報活用能力を育てる授業の実践事例
続いて、リーディングDX指定校の実践事例を参照しつつ、情報活用能力の育成を目指す授業の紹介に入っていきます。
リーディングDX指定校の実践事例紹介
最初に紹介されたのは壬生町立南犬飼中学校における数学の授業です。教員が主導するのではなく、子どもが自ら学びを進めることを前提とする授業の様子が紹介されました。
泰山氏は授業のポイントが「情報収集の方法を複数準備し、子どもが自分で選ぶ」ことだと説明。
自分で情報が理解しきれない場合は教員という情報源を、自ら情報を理解し収集したい場合は教科書を、他者の考えを知りたい場合は友だちと会話を、というような工夫が大切だと説明します。
続いて紹介された洲本市立大野小学校の特徴として泰山氏は「多様な場所からの情報収集」を紹介。
校庭に出て行き、写真を撮って情報を集めたり、YouTubeから情報を集めたりする様子が示されました。
泰山氏は「動画、ネット・ウェブ情報、教科書等の特徴を把握し、目的に応じて選択する力を育むための選択の機会を与えていくことで情報活用能力が育っていくはずだ」と補足。
そして、課題の設定や情報収集、まとめ・表現といった一連の流れの中で情報活用能力を最大限活かすには、情報活用能力という視点から各教科の学びを見直してみることが重要だと強調しました。
情報活用能力への理解を深めるために
続いて話題は情報活用能力への理解を深めるための手法に展開していきます。
情報活用能力を具体的に共有することが重要
泰山氏は「大事なことは、みんなで身につけた情報活用能力を具体的に共有することですね」と、学びの共有が情報活用能力の促進において重要な役割を担うと説明します。
教室に掲示物として学びの内容が共有されている様子を示し、このような環境が教員にとっても子どもにとっても、情報活用能力を深く理解するために大切だと説明しました。
教科内容と情報活用能力をバランスよく育む授業
続いて泰山氏は、教科内容と情報活用能力をバランスよく育む授業を提案。
情報活用能力の深化には時間がかかることを示しつつ、日常の授業で少しずつ情報活用能力に触れる機会を設ける必要があると説明します。
授業におけるウェブ検索、タイピングで振り返りを作成、スプレッドシートで共有、といった地道な練習を重ねて、子どもの情報活用能力を鍛える必要があることを再度主張し、話題は教員の情報活用に移っていきました。
情報活用で教員の働き方、学び方も変えていく
泰山氏は最後に、情報活用で教員の働き方や教員の学び方を変えていくことの重要性に言及。
子どもと同じツールを使用して業務改善を行うことで、子どもと同じ目線に立って指導ができ、お互いの学びが深まっていくはずだと説明します。
「子どもの学び方だけを変えて、教員の働き方や学び方はこれまで通りではうまくいかないと思っている」と述べ、教員側における積極的な情報活用を訴えました。
本学習会のまとめ
最後に、泰山氏による本学習会のまとめがありました。
泰山氏は学習の基盤となる資質・能力としての情報活用能力の重要性を再確認し、子どもたちの情報活用能力を十分に発揮できるような学習に変えていこうと呼びかけます。
その学習を実現するためには、学習の主導権を少しずつ子どもに渡すことが必要だと説明。情報活用能力も指導しつつ、学んだ能力を発揮する機会を用意する、という繰り返しが必要になると説明します。
さらに、情報活用能力を十分に発揮するためには長い期間を要することを再度述べ、学習の時期には失敗やチャレンジを許容し、積極的にやってみる環境を作るのが重要だと進言し、本学習会を締めくくりました。