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標準仕様とクラウド環境を活用した校務の改善の取組 リーディングDXスクール事業 公開学習会 リポート Vol.5

2024.1.26

2023年12月19日に実施された“リーディングDXスクール事業”第5回公開学習会では、大分県玖珠町と埼玉県久喜市の取組実践が紹介されました。
事例紹介では、GIGA端末の標準仕様とクラウド環境を活用した校務改善に注力する両校の現場の声や、客観的な視点からの分析が発表されました。
本記事では公開学習会の発表内容と、質疑応答の様子をリポートします。

登壇者

大分県玖珠町教育委員会 教育政策課 GIGAスクール推進室
室長 衛藤公彦 氏
主任 平川拓也 氏

埼玉県久喜市立久喜東小学校
校長 富山司 氏
事務主任 舩津大河 氏

学校DX戦略アドバイザー
認定NPO法人ほっかいどう学推進フォーラム理事長
(一社)北海道開発技術センター 地域政策研究所 参事
新保元康 氏

玖珠町の実践報告

大分県玖珠町教育委員会GIGAスクール推進室の衛藤氏、平川氏からクラウド環境の活用による校務改善の事例紹介がありました。

最初に、玖珠町立塚脇小学校における具体例をもとに、校務におけるクラウド活用の有用性を解説しました。

「まずは使ってみる」を重視

発表の冒頭、衛藤氏は今回一番伝えたいテーマが「すごいことをしようと考えない」であることを強調します。最初から立派な成果を目指すのではなく、まずはGIGA端末を使ってみて、失敗の中で修正を重ねることが大切だと述べました。

加えて衛藤氏は「慣れてくると、どんな場面でGIGA端末を利用するのが便利であるか、実感していきます」と語ります。校務で使っていく中で改善を続けることが働き方改革・教育の質の向上につながり、教師・子ども・保護者それぞれに良い影響をもたらすことを説明しました。

今回の玖珠町の報告では「困っていたこと」「なにをしたか」「なにが生まれたか」の3つを中心に発表することを言い添え、話題は実践の解説に移行します。

クラウド環境の活用による校務改善の具体例

続いて平川氏が具体的な校務改善の事例を紹介しました。最初に平川氏が言及したのは、クラウド環境での場所を問わない端末利用についてです。

これまで塚脇小学校では、校務用パソコンが1人1台用意されていたにも関わらず無線利用が禁止されていたため、利用場所が職員室に限定されていたという従来の課題を説明しました。

そして現在はこの状況を改善し、教室での端末及びクラウド環境の利用を実現していると語りました。

続いて平川氏はクラウド活用による校務改善の具体例を提示します。「学校プラットフォーム」を構築し、「出欠席連絡」「スケジュール」「週案」それぞれの管理・共有をクラウド環境で行っていることを説明しました。

学校プラットフォームは全教職員が毎朝必ず目を通すサイトであり、一ヶ所に情報を集約することで情報共有を容易にする効果があると解説がありました。

また各種情報のクラウド化により、電話対応の削減、表計算ソフトの共同利用による効率的な情報管理、日報作成作業の削減、場所を問わない情報確認などのメリットが生じたことを述べています。

その他、チャットによるコミュニケーションにより、教育委員会や他校ともより機微な連絡が可能になったと説明しました。

平川氏はクラウド活用の成功要因として「校長のクラウド活用への理解と推進」「教職員主導の校務DXの推進」「GIGA端末の標準仕様で完結」の3つをポイントとして述べ、特別なスキルや機能が必要ないことを強調します。

クラウド活用によって生じた変化

続いて、クラウド活用で生じた変化を衛藤氏が解説します。情報共有が飛躍的に進み、クラウド活用に関する意見交換をきっかけに教員間のコミュニケーションも活性化し、職場の風通しも良くなったことで、意識せずとも働き方改革が進行していたと述べます。

また衛藤氏は教員アンケートをもとに、教員の端末活用に対する意識の変化にも言及しました。

GIGA端末が届いたばかりの令和2年12月は、教員の意識は「端末の効果的な活用法や効率よく使いこなす方法を求める」傾向にあったものの、令和5年12月には「日常使いによって端末活用能力が向上し、校務の効率化や授業改善が進むと思う」と、実践から学ぶ意識に変化していったそうです。

このような意識の変化から、衛藤氏は「端末を日常使いすることが一番の近道であることに先生方が気付いた」と読み取ります。続いて、講習や受け持っている学年・教科に関わらず、校務で使い始めることによって端末が手放せなくなると指摘します。最後に衛藤氏は、まずはGIGA端末を使ってみることが大切だと再度強調し、発表を締めくくりました。

質疑応答

続いて進行役を務める新保氏からの質問に衛藤氏が回答する形式で、質疑応答に移りました。

玖珠町でのクラウド活用が順調に進んだ要因は?

新保氏はまず「ズバリ、玖珠町ではここはうまくいったな、というストロングポイントはどこですか?」という質問を投げかけました。

これに対して衛藤氏から「校長先生のリーダーシップが一番の要因だと思っています」と回答があり、現場に近い校長主導でクラウド活用に積極的に挑戦し、それを教育委員会がサポートする体制が強みであることが強調されました。

学校プラットフォームは具体的にどのように使っているのか?

衛藤氏は教員が学校プラットフォームを通勤中や前日にも確認していることを説明しました。これによって職員朝会の時間を削減でき、教員は学校到着後すぐに子どもの待つ教室に向かえるようになったと語ります。

また、学校プラットフォーム内には「つぶやき」「週案」「業務改善アイデア」「連絡会資料」といった特設ページが用意されており、これを使えば業務連絡や思いつきをリアルタイムに教員間で共有することができるため、必要な情報をまとめて確認できることが説明されました。

GIGA端末の活用はますます広まっているのか?

衛藤氏は「クラウドを体験した先生はどこで活用すればよいかがどんどん分かってくるので、いろんなことを試してみたくなる」と回答し、教員が主体となったクラウドやGIGA端末の活用が、一層広がっていく見込みであることを解説しました。

久喜市立久喜東小学校の実践報告

続いて、埼玉県久喜市立久喜東小学校事務主任の舩津氏から、GIGA端末の標準仕様とクラウド環境を活用した校務改善について発表がありました。

久喜東小学校における具体的な取り組みをもとに、校務処理の効率化、働き方の多様化、コミュニケーション活性化の3点におけるGIGA端末の有用性を示すとともに、校務DXによって実現したいことを解説しました。

チャット機能の活用

舩津氏はまず、GIGA端末で利用できるチャット機能について解説します。個人チャットやグループチャットに加え、プロジェクトごとの管理も可能で、メールよりも早いテンポでやり取りを行えるようになったといいます。

教員が急遽不在となった場合や対面で話し合いができない場合のトラブル対応を例に挙げ、グループチャットやクラウドを活かした情報共有で迅速に対応できたと語りました。

舩津氏はチャットを有効活用できた事例として、市内の美術展搬入時の様子を紹介します。展示された作品名が本来の作品名と異なるトラブルが発生し、急遽修正が必要になりました。

このとき現地からチャットで連絡を行い、教室にいた担任教師が子どもに確認をして、即座にチャットで返信することによって、時間をかけることなく作品名が修正できたと語ります。また、作品の配置に際しても、チャットで写真を使ったやりとりをすることで正確な配置を実現できたそうです。

舩津氏は「チャットの活用で時間・場所・所属にとらわれない気軽なやり取りが進められています」と述べ、情報共有によって意思決定までのスピードも向上したと語ります。

共同編集機能の活用

続いて舩津氏は、共同編集機能の活用について解説します。以前は職員会議資料をPDFで共有していたところ、変換や差し替えの手間が必要になることを踏まえ、現在ではクラウドを利用して共同編集できるツールに移行しました。

クラウド環境を利用し、会議中に資料を共同編集できる環境を整えた他、打ち合わせ簿や各部会資料を共同編集可能にすることで、変換や差し替えの手間も大きく削減しました。

また、職員ポータルについても言及があり、情報を集約することで教員が情報にアクセスしやすくなったと述べました。職員ポータルを含むGoogleサイトについては、特別な知識が不要で、GIGA端末の標準仕様で作成できるのが魅力だと語ります。

校務DXで実現したいこと

舩津氏は「クラウド活用を進めた成果として校務の時間が削減されたことで、子どもに還元できる時間や先生方自身の時間が増えた」と語り、下の世代にとって魅力的な職場環境づくりの実現に校務DXが有用であることを説明します。

これからの世代はICTやクラウド活用に関心のある世代であり、GIGA端末を利用した職場づくりは今後の人材確保においても重要なテーマであることが強調されました。

最後に舩津氏は「ICTを活用していくには、ICTが負担ではなく便利な道具だという実感が必要かと思います」と語り、校務の効率化やコミュニケーション活性化によって、授業でのICT活用のアイデアも生まれてくることを説明しました。

「教員が自分のためにICTを利用する」ことが授業におけるICT活用の近道とし、「まずはポジティブにやってみる」ことが大切だと述べ、発表を締めくくりました。

質疑応答

続いて、事前に届いた質問に富山氏が回答する質疑応答の時間に移りました。

久喜東小学校が校務DXを進めてきた主目的は?

富山氏は「教職員の働き方改革の実現のため」と回答し、クラウド活用による校務の効率化によって、教職員が子どもたちと向き合う時間をより多く確保することが主目的であることを説明しました。

令和2年度から令和5年度にかけて教員の超過勤務時間が減少し続けていることを示し、校務DXの推進が、明確に効果を表していることを示しました。

校務DXにおいて最初に着手したことは?

富山氏は「初めの一歩は会議資料のデジタル化」と回答し、富山氏が校長に着任した当時は紙で配布していた会議資料について、デジタル化するよう要望を出したと語ります。

最初はPDF形式、次いで共同編集が可能なツールと段階的に移行していき、資料を書き直す手間の削減やリアルタイムでの情報共有を徐々に進めていきました。

校務での端末活用によって授業はどのように改善されたのか?

富山氏は「校務のDX化が進めば授業のDX化も進み、授業のDX化が進めば校務のDX化も進みます」と説明し、教員が校務DXで得た学びを授業にも還元していることを示しました。

現在は授業の中で、チャットを利用した意見交換やクラウド環境を利用した共同編集を子どもたちも行っています。

校務と授業の両方でDX化を進め、両者の良いところや発見を取り入れることで相似の関係で改善が進んでいることを強調しました。

校務DXが順調に進んでいる要因は?

富山氏は一つ目の回答として「視察等の依頼は断らない」ことを挙げました。視察の依頼を受け入れることで教員の授業力が向上し、教員や子どもの誇りや自信につながっていくと説明します。

二つ目の回答として「積極的に視察研修等に出張命令をする」ことを挙げました。リーディングDXスクール先進校への視察や各種研修会に、教員が積極的に参加してきたことで、視野の拡大、関係者間のネットワークの拡大といったメリットがあることを述べました。

三つ目の回答として「校長のリーダーシップが教育のDX化を進める」という意識を持っていることを説明します。校長である富山氏は「当たって砕けろ、当たる前に砕けるな」「失敗は成功の基」という言葉を掲げ、実践の中で課題を明らかにし、改善することが校務DXにおいて重要だと強調しました。

「とにかくやってみる」を実現するために大切なことは?

富山氏は実際に取り組んできたこととして「思いつきでも、とにかくやってみよう」というマインドを徹底してきたと述べました。また、教育委員会も同様の方針で指導を行っているため、多少失敗しても教育委員会のサポートを頼りにできる安心感が大きかったと語ります。

新保氏からは、校長である富山氏のリーダー像への言及もありました。上の立場から指導を行うイメージではなく、教員と一緒に飛び込んで応援していく姿が、「とにかくやってみよう」という雰囲気を促進していると所感を述べました。

新保氏によるまとめ

最後に、新保氏による本学習会全体のまとめがありました。新保氏は「私たちが今やっていることの最終ゴールは令和の日本型学校教育の実現」だと説明し、その中核となるのが教員の働き方改革とGIGAスクール構想の実現であることを強調します。

これらを実現するための重要な要素として、GIGA端末の標準仕様やクラウド活用が有用であることを再確認しました。

GIGA標準仕様とクラウド活用による校務改善については情報共有の質の向上、各種手続きの簡便化、教員・保護者がWin-Winの課題解決ができる点をポイントとして解説します。

特に情報共有の質の向上について、会議による拘束時間を減らしつつ職場の風通しが良くなっていると評価し、働き方の多様化への対応が実現できていると語りました。

また、クラウドに慣れることが授業改善の近道であることにも言及しました。校務と授業の両方で相互的にクラウドを活用する重要性を再確認し、「とにかくやってみる」という精神の重要性を強調しています。

最後に新保氏は「GIGA端末の標準仕様とクラウドの活用が働き方改革や教育の質の向上につながり、校務改善の大きな可能性を実感しました」と、校務DXへの期待を寄せて本学習会を締めくくりました。